観察
「………。」
初めての生き物を見る目付きで流輝がじっとF‐369を観察している。
見覚えのある燈夜の服を着、燈夜のベッドで自称“F‐369”は静かに目を閉じている。波があるらしく、今は咳は出ておらず、胸も定期的に上下している。
(重要機密レベルマックスの謎人物…)
早番だった燈夜からは詳しく聞けずに彼を見送ってしまった。わかるのは、彼が自らを“F‐369”と名乗ることと、今調子が良くないらしいことくらいだ。
ベッドの脇、床に直接座り込んで、流輝は頬杖をついた。距離は近い。近すぎるくらいだ。
「……。」
視線の先には、横になったままのF‐369。
眠っているわけでも起きているとも言い切れない、曖昧な状態。呼吸は浅く、規則正しい。
(肌…白っ…。)
流輝は遠慮なく顔を近づけた。
鼻筋、まつ毛、唇の形。
整っているとか綺麗とか、そういう言葉より先に浮かんだのは__
(『お人形』みたい。)
感情を何も映さない、ただそこに在るもの。例えるなら精巧に作られた人形だ。
「ねぇ。」
返事はないとわかっていて、流輝は声を出した。試すような軽い声。
「まつ毛、長くない?羨まし〜。」
独り言みたいに言って、少し笑う。その瞬間、F‐369の瞼がわずかに動いた。
「あ。」
目が開いた。真正面。
流輝の顔がかなり近い位置にあり、一瞬だけF‐369の視線が固まる。怯えではない。無視もしない。ただ、“見ている”。
何か用だろうか、と窺っているようにも見える。流輝は反射的ににこっと笑った。
「起きてたんだ。」
返事はない。けれど視線は逸れなかった。
燈夜ならここで距離を取り、椅子に座り直して様子を見るだろうが流輝はお構いなしだ。
「熱、下がった?」
額に触れるべくそっと手を伸ばす。その手を避けたり、恐れたりする様子もなく、そのまま受け入れられた。
「んー、君、平熱低い感じ?わかんないや。…怖くはないぽいね。ま、流輝ちゃんは可愛いから当然か。…あ、私、流輝ね。あいつ、燈夜の幼馴染。」
言葉は投げるが答えは求めていない。それでも、F‐369の視線がわずかに揺れた。
(……考えてる、のかな?)
流輝は首を傾げる。
「大丈夫。ここ、悪い人いないよ。」
自信満々でも、保証でもない。ただの事実として伝える。F‐369は何も答えない。
けれど、さっきより呼吸が少しだけ深くなった気がする。
流輝はそれを見て、満足そうに息を吐いた。
ーーー
(まさか『普通』に残業に捕まるとは…。まぁ流輝居るし、食べさせたりとかは大丈夫だろうけど…)
安心感はありつつも急いだ家路。
帰って一番に見た光景はベッドで眠るF‐369と、その脇でベッドに突っ伏してすやすや眠る流輝の姿だった。




