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助けてとそいつは言った

ゆっくりと、自分の足音を確かめるように立ち入り禁止区域を歩く燈夜の姿があった。

“ここに異常は無い”。そう話した彼を恐れた高科に急かされて旧区画まで出ると、逃げるように高科は去って行った。

“どうせ明日になったら扉の解錠番号もリセットされるんだ。”

残された燈夜に嶺亜の言葉が存在感を持って寄り添ってくる。

__今ならまだ入れる。

そう思ってしまった。

辺りを窺って気配がないのを確認し、再び禁止区域へ入ったのがついさっきだ。

入った者を惑わせる為ではないだろうかと思える複雑な道。頭の中の動力庁舎の配管図と照らし合わせれば進むことも容易かった。


「………。」

長い道のりを歩く燈夜の脳裏には、ある人物の笑顔があった。

幼馴染の流輝と共に三人必ず一緒だった存在。颯。

知り合ったのはほんの些細なキッカケだった。身体が弱くて背も小さく、いじめられていた颯を、燈夜達が助けた。たったそれだけの事だった。

今日、あの部屋で起こった出来事はいじめっ子から何をされても黙って耐えていた颯を彷彿とさせるのには充分過ぎる条件だった。見ていられなかった。作業完了を告げて止めたのも、そんな理由だ。

(じゃあ、今戻ってる理由は?)

静かに自問自答する。

哀れみ?好奇心?正義感?

ぴったりと当て嵌まる単語は見つからない。

“違う”

あの時。

“ここに『異常』は無い”

あいつは高科の言葉に反応したように、自ら口を開いた。ただ問われた事を答えている時とは少し熱のある話し方。

…もしかすると。

あの場に居たのは見るからに弱い高科と、『部外者』である燈夜の二人だけだった。

だから。だからこそ、口を開いたのではないか。そう思った。

もし会話が出来るのなら。彼が何者で、何故あんな場所にいるのか、保全庁は何を隠そうとしているのか。聞きたい事が山ほどあった。

(流輝をバカにできないな。)

失笑を浮かべた燈夜が足を止める。あの、扉の前だ。


ーーー


備えてあるセキュリティの精度の高さはかなりのものだ。しかし常時監視をしているわけでも、通行した記録が残るシステムでもない。入るすべさえあれば近付ける。

道中の扉を開けるよりも幾分か緊張した指が解錠番号を押した。

「………。」

息を潜めて、物音を殺して今日何度目かになる部屋に入る。

「!」

静まり返っていると思った部屋の中は明らかに先程とは違う様相だった。

呻いているような、何か呟いているような、そんな声と衣擦れの音。音を立てているのは、ついさっきまでベッドで死体のように横たわっていた『人形』だった。

「おい…!大丈夫か?」

何かを求めるように空を掻く手を掴まえて肩を揺する。

何回か呼び掛け、ようやく薄っすらと目を開けると

_たすけて

真っ直ぐ俺の目を見てそう言った。


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