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1章1話

夜下がりの港町、

穏やかな灯りに包まれる。


ひとり、

カウンターに腰下ろす。


手元にグラス、

水面を指先で弾く。


ぼんやり、

周囲の喧騒を眺める。


「…やれやれ」


小さな吐息。


耳に届く笑い声、

ジョッキの音、

どこかまるで…遠い世界だ。


一瞬、

過去の記憶が浮かぶ。


煌びやかな玉座。

整然と並ぶ執務官。

“殿下”と呼ぶ声。

威厳に満ちた光景。

胸の奥を締め付ける。


すぐ記憶は薄れる。


温い木製のカウンター。

柔らかく揺れるランタン。


かすかに漂う、

焼いた肉の香り。


自分は、

ここにいる。


ただ一人の人間だ。


「…厭だ厭だ」


ため息。


……昔のことなんて、どうでもいい。


グラスの水面 顔が映る。


見つめ、

肩をすくめる。

波紋が柔らかく広がる。


足音に振り向く。

店員が覗き込む。


「お食事は何になさいますか?」


一瞬、

考え込む。


豪奢な宴を

思い浮かべつつ。


「…今日のおすすめで構わん」


店員はニコリ。


背を向けた。


瞬間、

肩の力が抜けた。


あれは過去。

確かにあった。


今は、

ただの人でありたい。


港灯りの酒場。


しんみり、

この世界を、

この一瞬を、

噛み締めていたい。


***


女が一人、

酒場を見渡す。


どの席も、

空いていない。


笑い声。

ジョッキの音。


少し焦る。


休みたい。

席を探す。


一つの、

空いた椅子。


慌てて近づく。


席には、

白い髪の男性。


静かに、

視線が合う。


冷静で、

凛とした瞳。


初めて、

見るはず。


初めて…

心がざわついた。


静かな港町。

これから始まる物語。


ささやかな一歩、

ここから始まる。

「あ…あの…」


「……何だ」


「相席…いいかしら?」


男は軽く眉をひそめる。


「……ああ」


彼女は戸惑いつつ、

空席に座る。


テーブルに、

エールと地図。


「本日のお勧めです」

テーブルに料理。

男は黙々と食べる。


ふと気づく。


「……お前」

一拍。

「食べないのか?」


「えっと…」

彼女は恥ずかしそう。


「その……金欠でして」


男は視線をそらした。

小さくため息。


「そうか…悪かったな」


気まずい。

沈黙が刺さる。


彼女は気に留めず。

地図を見つめる。


「いつか、東邦へ行ってみたいなぁ」

ぽつり。


ふと、

顔を上げる。


「あなたのジョブ、参考に聞いてもいいかしら?」


「……は?」


一瞬、

口を噤んだ。


「……面倒くさい」


ため息。

「……お前」


呆れ顔。


「見知らぬ奴に、軽々しく聞くものではない」

一拍

「少しは警戒心を持て」


彼女は息を呑む。


懐かしい。

記憶を揺さぶる。

初めてなのに、

どこかで…。


突然、

立ち上がる。 


「私!」

唾を飲む。


「貴方と!一緒に旅がしたい!」

目を輝かせた。


「お前……」


男は呆気に取られる。


彼女は顔を赤くした。

慌てる。


「あらやだ...」

「本当に…私ったら……」

「いっ…今の。聞かなかったことにして!」


不思議な感覚。


男は、

わずかに、

口角が上がる。

肩を揺らした。


「……やれやれ」


こいつ、警戒心というものがないのか?


「お前、所属は?」


彼女は背筋を伸ばす。

「あ…はい!」


真剣な眼差しで、

「あ、明日からギルドで稼ぐ予定です!」


真っ直ぐな返事。


いや、

的外れな応えに、

男は小さくため息。


「……落ち着け。酒場で寝落ちしても、何も始まらんぞ」


「え…あっはい!」


冷や汗が出る。


男は見守る。


そんな、

小さな視線。


二人の距離が、

静かに灯る。

第19章まであり。

書き直しつつ投稿。

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