エピローグ
昭が、ゲストハウスを初めた2015年には、大島に、1軒しか無かったが、シェアハウスから始まり、しまなみ海道を自転車で渡ろうと言う県の試みの途中からコロナ騒動で、一時下火になっていたサイクリング熱が再加熱して、コロナ騒動が終息すると、2023年頃から、全世界にサイクリングブームが再加熱して、しまなみ海道は、今までに無いサイクリングブームが訪れた。
昭が、大島に移住して来た2011年頃には、昼間に通りを歩いている人も、自転車に乗っている人もほとんど居なくて、車も何の問題もなく、スムーズに通れていたが、2023年頃からは、土曜日、日曜日は、日本人のサイクリストも沢山見かけるが、平日は、ほとんど外国人のサイクリストで、車の運転も、サイクリストと、事故を起こさないように気をつけながらの運転になって行った。
当然のことながら、外国人の宿泊客が多数を占めて、2023年頃には、大島だけでも、ゲストハウスが20軒以上になっていた。
何処のゲストハウスも大勢の外国人の宿泊客で、予約が埋まり、宿泊金額も上昇を続けて行った。
昭が、ゲストハウスを始めた頃には、民宿で、1泊2食付きで、5500円、素泊まりで4000円が相場だったものが、2024年には、素泊まり1名7000円から8500円、食事が付くと10000円から12000円が、当たり前の金額になっていた。
しかし、昭のゲストハウス星空は、以前と同じ料金で、食事も出さず、素泊まりだけの営業に徹した。
その上、サービスは、以前にも増して、良くするように努めた。
それは、昭の今までの商売の経験から、一時のブームに流されると、長続きしない!と言う信念で、細く長く、良心的にやっていれば、いずれサイクリングブームが過ぎても大丈夫だ!と言う気持ちからであった。
ましてや、74歳になった今、年金に少しの収入で、何とか生活して、金にあくせくしないで、残りの人生を楽しもうと考えていた。
世界中からの外国人ゲストさんと話をしていると、日本と言う国は、確かに治安もいいし、暮らしやすくて、外国人が羨ましがるほど、住み良い国では有る。しかし、現実に外国人ゲストさんと話していると、ある日のドイツ人曰く
「私達の国では、大学の授業料は、全て国が面倒見てくれて、その大学を卒業して、もう一度他の大学に行きたくなっても、全て、国が面倒見てくれる。だから私達は、思いっきり、自分のやりたい勉強が出来るんです。だから、会社に入っても、良い仕事をすれば、3ヶ月でも半年でも休暇を取って、旅行することが出来るんです。どうして日本人は、こんなに一生懸命働いて、最高1週間くらいしか休みが取れないのですか?可笑しいでしょう。もっと世界を見る時間が必要じゃ無いんですか?」
それを言われて、昭は、何も返す事が出来なかった。
中国人が来た時にも、「確かに中国では、自分の土地を持つことも出来なくて、facebookも出来なくて、自由が無いけど、中国人の殆どの人が英語も話せます。
私達は、日本は、先進国だから、全員が英語を話す事が出来ると思っていたけど、いざ、日本に来て見たら、英語を話す事が出来る人が殆ど居ないのには驚きました。
中国では、世界中に国が金を出して、大学を作っていて、中国人は、優先的に、その大学に行く事が出来ます。だから今の中国人は、殆どセカンドネームを持っています。例えば私のセカンドネームは、キャサリンです。それは、海外へ行っても対等に話が出来るようにする為です。」
確かに、外国人ゲストさんが、皆んな口を揃えて言うのは、「日本人がこんなに英語が話せる人が少ないとは思わなかった。」と、言う事です。
昭が、まだ、シェアハウスをしていた時、外国人ゲストさんと、東大の学生6人のグループが同じ宿泊になった。
その時昭が、外国人に、英語でゲストハウスのルールや、部屋の使い方、海での注意事項、観光場所の説明をしていると、東大の学生達が「カッケー、英語で喋るんだ。」と言うので、昭が「君達も、英語は、喋れるんだろう?」と聞くと「いえいえ全然。無理です。叔父さんは、昔から英語が喋れるんですか?」と、聞いてきたので、「いやいや、全然喋れなかったけど、60歳を過ぎて、このゲストハウスを始めてから勉強したので、まだまだ、片言だよ。」
「いや、凄いですよ。俺たちなんか、何言ってるか、全然分からなかったですよ。」「それだったら、今度来た時は、私と英語で話しをしよう。」「分かりました。今度来る時まで、勉強してきます。」そう言って別れた。
日本は島国で、他の国から来るには飛行機か船で来る方法しかない。しかし、他の国では、陸地で、隣の国はすぐに行ける。だから必然的に、英語が必要になる。
スイスやオランダなどでは、母国語と、フランス語、英語を話すのが当たり前で、子供の頃から3ヶ国語を勉強している。
昭がゲストハウスをしていて、アメリカ人と友達になり、彼が東京の高校で、英語の教師をしているのだが、彼曰く、「生徒が1年生、2年生の時までは、話し方や熟語を教えているけど、3年生になると、英語の試験が受かる勉強だけで、会話の勉強は、一切してはいけない、と言われ、アレでは、今まで、僕が一生懸命教えてきた事を忘れてしまうだろう。試験が受かっても、会話ができないよ。」と、嘆いていた。
ある日、フィジーから女性のグループが、やって来て「ここはいいねー。この家から、海が見えて、船が幾つも通るのが見えて、その向こうには、島が見えて、なんて素敵な所なんでしょう。」と言うので、
「フィジーの方が、海は綺麗で、海の色も違うだろうし、私達は、貴方の方が羨ましいですよ。」と、言うと「海は有るわよ。360度海だわよ、でも、その向こうは全て水平線で、船も、島も何も見えないのよ。毎日、海しか見えないのよ。ここの方がずっと良いわよ。」
なるほど、やっぱり、世界では、そこだけ見ていてはダメなんだ。日本は島国だから、もっともっと海外へ行って見聞を広めないから、小さい考えしか浮かばないんだ。日本も、国民をもっと世界に羽ばたかせないと、本当にダメになるなぁ、と思うようになった。
スウェーデン、ノルウェー、デンマーク、フィンランドのように、出産から死ぬまで国が責任を持つべきだと思う。
但し、税金は高いけど、その分、国が国民の面倒を見る。
先日もゲストさんと話をしていて、「日本と言う国は、治安も良くて、国民も勤勉で、働き者で、物をなくしても必ず届けてくれる正直ものばっかりで、真面目なのに、どうして国民はこんなに一生懸命働いても、裕福じゃないの?」と言われて、返答に困った。
だから昭は、この歳になって、自分の生活は、自分で何とかする。
今まで生きてきた中で、今が1番幸せな人生だ。
今度生まれてくる時は、もっと、ゆったりとした人生を送りたいと思う。




