ゲストハウス起動
そんな状況を見かねた友人が、
「最近は、この別荘の方も静かで、あまり人が来とらんみたいじゃけど、それやったら空いている時には、レンタルで貸したら?」と言われ、(なるほど、そうすれば多少は生活費の少しの足しになるなぁ)と思い、華にその事を相談すると、「そうね、それじゃあ、ネットで、どう言うやり方が有るか調べてみるわ。」と言って、早速パソコンに向かい合った。
その中には、新しい宿泊施設のやり方で、最近話題になって来ている、ゲストハウスと言う形態の宿泊施設があり、各部屋をシェアで貸し出し、調理が出来るような施設でゲストさんを受け入れ、その後は、ゲストさんの自由にさせて、チェックアウト後に、掃除に入るだけの作業だと言う事だったので、それだったら、2人の時間にも、チェックインの時に立ち会い、その後は、掃除をするだけなので、そんなに手間は掛からないだろうと考え、やってみる決心がついた。
それならば、料金も安くして、2人の生活の少しの足しになれば良い。
新しいゲストハウスの裏にはビーチも有り、周囲には、それ程の民家も無く、空には満点の星が見える大空が広がり、ゲストハウスの名前も、「星空」と、名付けた。
時は2014年10月1日、昭64歳の事だった。
島には、ほとんど人も通らず、夜にはバッタリと人気もなくなり、コンビニが2軒も有るのが不思議なくらいで、昭達が移住してきた時に、コンビニの店員さんに、「ここは何時までの営業ですか?」と聞くと、コンビニの店員さんが、少し怒った顔をして「コンビニですから、日本中何処でもずっと開いていますよ。当然ここも24時間営業です。」と言われ、驚いたもので有る。
そんな所だから、宿泊客など、月に1人くらいしか来ないだろうと思い、早速ネットで、ゲストハウスの登録サイトを見つけ、海外サイトで、日本でも、若者に人気のサイトが有ったので、先ずは、そのサイトに登録をしてみた。
すると直ぐに2泊3日の予約が入った。
昭も華も、日本の若者達にも人気があるサイトなので、当然、日本人の予約だろうと思っていると、何と、オーストラリアからの4人組だった。
「オイ、外国人じゃ。俺、英語喋れんぞ。華は?」
「私も英語なんか全然喋れんよ。」
「どうする?断るか?」
「そうよね、無理よね。断ろうよ。」と、2人は、日本人以外は断ろうと決めた。
しかし、良く良く考えた昭は、
「そやけど、どうせ、遅かれ早かれ、その内、外国人も受けんと行かんようになると思うぞ。」
「そうじゃねぇ、そやけど、英語が...」
「しょうがない、何とかやってみるか。」
そう言って、宿泊OKの返事を出した。
「学校で習うたんは、最初は、ハウドゥユゥドゥ言うて来るけん、その後は、アイアムファインサンキュー、アンジュユー?じゃ。それは、高校時代に教えて貰うたけん、間違い無いわ。」
「うん、分かった。アイアムファインサンキュー、アンジュユー?やね。」
「オゥそうじゃ。その後のことは、成り行きや。何とかなるやろ。」
2人は、そう言いながらも、ドキドキしながら、オーストラリア人を迎える事になった。
3日後に、4人が車に乗ってやって来た。
ハウドゥユゥドゥじやな。
と思いながら出迎えると、「ハーイ」と言いながら、手を振って大男4人組が現れた。
(エッ、ハーイ?)
予想していなかった挨拶に、2人とも呆気に取られて、「あぁ、どうぞ、どうぞ。」そう言って、手を差し伸べて、玄関へと誘導した。
「コンニチハ、ハジメマシテ。」
エッ、日本語じゃん。
と驚く昭に、笑顔で握手を求めて来た。
彼は、「ワタシハ、スミスデス。イマ、ニホンニスンデイマス。ニホンゴスコシハナセマス。」と、言うので、2人ともホッとして、「有難うございます。どうぞシットプリーズ。」と、昭が言うと、「ノーノー、シットハダメ、ソレハクソ、シットジャナクテ、スィットネ。」と言われたけれど、どこがどう違うのか、サッパリ分からなかった。
その日は、色々話をして、英語の授業が始まった。
昭が思っていた、ハウドゥユゥドゥのくだりは、外国人でも、滅多に使わないらしく、それを使うのは、仕事の時に、初めての人に会う時くらいで、かえって使わないほうがいいよ。と教えてくれた。
彼達曰く、日本は先進国だから、皆んな英語が話せると思っていたが、こんなに英語が話せない人が多いのには驚いたと言って、両手を広げた。
これを逃す手は無いと思い、昭と華は、
「夕食は、私達がご馳走するから、一緒に食べましょう。」と言って、華が料理を作り、昭は、自分の好きな日本酒を出した。
彼等は驚いて、喜び、自分達が持って来た、ワインと、焼酎を出し、延々と宴会が続いた。
気が付けば、昭が持って来た日本酒一升瓶が直ぐに空になって、彼等が持って来た赤ワイン2本と、焼酎5リットルの瓶も、ほとんど飲んでしまっていた。
外国人は、凄い酒飲みじゃ。と思いながらも、さすがに昭も飲み過ぎて、もう、英語やら日本語やら分からない言葉が飛び交い、会話での交流が難しくなると、昭が知っている、昔懐かしい映画の主題歌ローハイドや、メリーホプキンスの悲しき天使を、皆んなで肩を組みながら、大合唱で歌って、お開きになった。
華の運転で、自宅に帰る途中、「良かったなぁ、身体はデカいし、怖いなぁと思うたけど、ええ人ばっかりやったなぁ、オマケに英語も教えてくれて、その上宿泊料のお金まで貰うて、英語の塾に行った思うたら、何か悪い気がするなぁ。」
「ホンマやね、案ずるより産むが易し、だったよね。
そやけどアンタ度胸あるわ。よう皆んなと一緒に肩組んで、歌、歌うたわ。中々今の日本人じゃ珍しいんじゃ無い?」
「そうかなぁ?これからは、歌で繋がるか?」そう言って家に帰って、いい気持ちで、眠りについた。
島での、今までに有る民宿では、朝晩の食事付きで、大体5000円前後で、素泊まりで、4000円前後が相場だった。
そこで昭は、都会でも流行っていると言うシェアハウスと言うシステムを取り入れ、最初は、知らない人同士が寝る、定員10人のシェアハウスに設定していたのだが、昭は、自分自身、他人と同じ部屋で一緒に寝るのは嫌だったので、そう考える人が多いだろうと思い、2段ベッドがある4人部屋2部屋と、和室の、ベッドが2つ有る部屋1部屋を、シェアルームにして、金額も、1人3000円前後に設定した。各部屋1グループだけのシェアにして、最高人数10人、最低人数だと、各部屋1人ずつになるので、3人と言う設定にした。
いわゆる3グループの宿泊施設にして、食事は一切出さずに、素泊まりオンリーに決めた。




