呪われし丘陵 1
「吹雪いてまいりましたな。」
老齢の騎士が瞼を細めて言うと蒼白の騎士もうなづいて応える。
「ここから先はもはや呪われし地。気を引き締めていきましょう。」
レオたちは呪われし丘陵、ヴァルシア丘陵についぞ足を踏み入れたのである。
「ッ!レオ様。」
「ああ、あの丘の頂上何かいるな。」
レオが見据える先に月光を背に怪しい影が見えた。
影が徐々に大きくなっているように感じる。
「近づいてきておりますな……。」
「あれは、馬?いや、オオカミですか!」
「この吹雪の中襲われでもしたら地の利は向こうにある!どこか落ち着く場所で向かい討つぞ!」
「はい!」
レオ達は馬の脚を速めるが、銀の毛皮を駆る鉄仮面の男の速度は予想を遥かに超えてレオ達の背中に追いつかんとしていた。
「レオ様!」
「くッ!」
レオの首めがけて銀のかぎ爪が立てられんとした寸前で長槍がそれを防ぐ。
「殿下!ご無事でありますか!」
「助かったグラン。して、なに奴か!」
「去レ。ココから先は北の民の住まう地。キサマらの居場所など無イ!」
鉄仮面の男はグランが息つく間もないほどの猛攻を繰り出す。
「ヌゥ!」
グランは慣れない地での戦場ということもあり、鉄仮面の男に対して防戦一方を強いられてしまっていた。
その時、
ホォ~
と角笛の音が丘陵に響いた。
「増援か!?」
エルヴィンがレオのそばに駆け寄り、カルマが周りを警戒する。
だが、その角笛の音に反応して鉄仮面の男は翻ると吹雪の奥へと消えてしまった。
「一先ずは安心ということでしょうか。」
「しかし、慣れない地とはいえ、あのグラン殿が防戦一方とは……。北の地、正しく魔境ですか。」
グランは白い髭をさすりながら笑う。
「寄る年波には勝てませぬな。」
「いや助かったグラン。大丈夫か。」
「ええ。私は平気でございます。」
「雪も濃くなってまいりました。もし仮に奴が仲間を連れてきたのだとしたら……。急ぎましょう。」
「そうだな。しかしココから先は馬から降りる必要がありそうだ。みな、警戒しながら進むぞ。」
レオ達は深く降り積もった雪の中ゆっくりと、確かに歩を進めた。
数刻歩いたころ、少し先に進んでいたカルマが歩を止めた。
「カルマ、どうした。」
「はっ。殿下、あちらになにかが。」
カルマが指さした先にはドーム状の影が見えた。
「あれは……。もしかしたら人がいるかもしれません。向かいましょう。」
エルヴィンの言葉に一同はうなづく。
近づきその姿があらわになってくると、それは白い雪の塊で作られた建物であった。
「やはりあれは北の遊牧民族のイグルーでしたか。」
「ふむ。しかし様子が変でありますな。」
「たしか北の遊牧民族はミティスという体躯の大きい牡牛に似た動物と共に狩りをすると聞きますが、そのような姿は見えません。」
「嫌な予感がする。」
はたして、レオの感じた予感は的中してしまった。
イグルーの外には老人と子供の死体と血痕、そして人と馬の足跡が無数にあった。
「これは……ひどい。」
「先ほどの鉄仮面たちの仕業でしょうか。」
カルマの問いにエルヴィンが首を横に振る。
「いや、ここにある足跡は馬のもの……。あの連中が駆っていたのは狼であった。」
「殿下。この足跡覚えがあります。北の蛮族共が乗りこなす遥か巨大な馬でありましょう。」
雪の地で暮らす馬はフォルティス王国で使役されている馬の一回り以上の大きさを誇る。
実際、フォルティスの馬では到底運べないようなサイズの荷を引きずるような跡も見えた。
「おそらくは、子供と老人のみを殺し、女をさらい男も労働力として連れていく。何十年経とうと蛮族共の手口は変わっておらぬ。」
「そうか……。まずはこの遺体を北の地に風習に倣い神々のもとへ送り届けるのだ。」
「はっ。」
彼らの埋葬を行い祈りをささげるとレオは顔をあげて一行を見る。
「気は進まぬが、今夜はこの場所で休もうと思う。」
「賛成です。もはや周りも見えなくなってきました。この場所以外で安全な場所を探すのは困難かと。」
一行は住まうものがいなくなったイグルーにて休息を摂るのだった。
一行が寝静まったころ、人のぬくもりを取り戻したイグルーを見つめる影があった。
黒い甲冑に身を包まれ猛々しい黒き馬を駆る大男。
幾ばくか見据えると静かに進むのだった。