凶報
「父上と兄上が亡くなっただと!?」
遥か西方の地には国王と第一王子の死がほぼ同時に届いた。
今うろたえたる美青年は、芸術と女性をこよなく愛する聡明な王子、第二王子アモル・アウルム。
大陸西部に位置する大国、芸術の国『アルス』に使者として遣わされていた時のことであった。
「して先ほど申した遺言の件は誠なのか。」
「ハッ。こちらがその書簡であります。」
アモルは一瞥すると静かにそれでいて迷いなく縦に割いた。
「たわ言だな。ギガン、発つぞ!」
「すぐに準備を。」
アモルが部屋を後にしようとしたとき、窓がバタンと音を鳴らしカーテンがはためく。
月光を背に一人の仮面の男がたたずんでいた。
「ーーーまぁ待たれぬか。愛の貴公子よ。」
「なに奴か。」
「……我は影なり。」
「ッギガン!」
仮面の男が腰の双剣に手を当てる寸前にギガンが剣で仮面の男の胸を貫いたーーかのように見えたが、その剣はただ空を切り、仮面の男は最初からそこにいなかったかのように消え去ってしまった。
「申し訳ございません殿下。討ち損じてしまいました。」
「よい。それよりも早くここを出ねばならぬ。船の用意を!」
「船、ですか?王都に向かわれなくてよろしいので?」
「先ほどの男、どうにもあやしい。おそらくはエニグマの死角。今奴が牛耳る王都にでも向かえば命がいくつあってもたりぬであろうな。」
「して、向かう先はどちらへ?」
「北だ。」
アモルもまたレオと同じくはじまりの地、北の雪原へ向かわんとしていた。
ーレオよ、無事であるか!なんとしてでも生き延びて北に向かうのだ!
末弟レオに想いを馳せながら、アモルは馬を駆る。
港から1隻の船が出た。
そしてそれを見つめる二人の仮面の男と数多の屍があった。
「ずいぶん邪魔をされましたな。」
「全くだ。」
「しかし、勝手に死の海へと行ってくれるとは……。」
「追うぞ。どのみち6つの首が必要なのだ。勝手に死なれては極寒の海底で屍を探す羽目になる。」
「おやおや、それはいけません。仕方ないですねェ。」
闇もまた、蠢き始めていた。