レオの生誕
第七王子レオ・アウルムは北の辺境セプテン地方に位置する辺境最大の城塞都市ヴァラスキャルヴにてその生を受けた。
彼の母、ルナ・セプツ・オーネスは月のような人であったと辺境の民は語る。
孤児院を経営し、北の丘陵を超えし移民や住まう場所を失くした者たちの保護を積極的に行っていたのだ。
そんな彼女が第12代国王カリストに恋したのはまだカリストが王太子であったときである。
病に伏していた年の離れた姉ヘレン・セプツ・オーネスに一目ぼれしたカリストが北の地の視察を名目に足しげく通っていたころである。
まだ幼かったルナのことをカリストは妹かのようにかわいがり、ルナは兄のように慕うのと同時に淡い恋心を抱いていた。
しかし、ほどなくしてヘレンとカリストは結ばれ、子を為すことになった。
ルナは自身の想いを飲み込み、敬愛する姉と愛慕するカリストの婚約を祝福した。
ルナだけでなく王国中が祝福する出来事であったが、その祝福はみなが待ち望んでいた第一王子ハンニバル生誕となるその日に悲しみの声に変わった。
病弱であったヘレンは、出産ののち容態回復することなく、そのまま息を引き取ったのである。
ヘレンの愛した北の辺境にて彼女の葬儀は執り行われた。
その場所でルナとカリストは再開を果たしたが一言も交わすことなく、ただ静かに彼女を天上の女神のもとへ送り届けたのだった。
その後、カリストは間もなくして西方の大国の姫と婚約し、第12代国王カリスト・ヘルン・アウルムとして即位したこともあり、ルナとカリストは長らく会うことがなかった。
二人が運命の再開を果たしたのは、ヘレンの死後13回目の冬がやってきたころである。
城塞都市ヴァラスキャルヴ近郊のサティス霊園のそばに小さな孤児院があった。
ルナが院長を務めるアミュレ孤児院である。
彼女はその地にて墓地を守りながら子供たちの成長を見守っていた。
カリストがヘレンの葬儀後その場所に訪れたのはその時が初めて。
ヘレンの生き写しかのようなルナのその姿にカリストは目を奪われてしまう。
一方でルナはカリストの顔を見るやいなやその頬に強く平手打ちをした。
当然である。
王となってからいかに忙しくとも一度も会いに来ない者がいようか。
ルナはしかし、彼を激する言葉を発さんとするところで飲み込み、ただ涙を流し続けた。
カリストは彼女の涙を胸で受け止めることしかできなかった。
それからせめてもの罪滅ぼしとしてカリストは月に一度ヘレンの命日に顔を出すようになった。
恋は怒りに、怒りはまた恋に。
長い年月の間、カリストのためにとヘレンの眠る場所を綺麗に美しく保っていたルナの心は、淡い恋心から怒りに変わっていったが、彼の顔を見るとどうしてもあの頃のことを忘れようもできなかった。
カリストも最初こそヘレンの生き写しのような姿にどこか惹かれていたのもいつしかルナ自身に強い思いを抱くことになった。
それから一年ほどが経った頃、二人の間に一人の子供ができた。
それが、第七王子レオ・アウルムである。
ルナと共に王宮にて育てようとしたカリストであったが、ルナはこれを拒否。
孤児院の運営はもとより、ルナ自身の想いとして、この子には北の辺境にて民を知り、国を知り、将来国を背負うことになる第一王子ハンニバルを支える存在になってほしいという願いがあったのだ。
カリストはこれを承知し、信頼できる側近にルナたちの身を任せた。
こうして母譲りの金髪と父と同じ碧き瞳を持つ青年は、波乱の時代に生を受けた。