その手に宿るのは
「さぁ、経験値になってもらうぜ?」
僕は、思いっきりモーラボールに素手で殴りかかった。
今、倒すためには、こうするしかないのだ。
たとえ弱いとされている魔敵とは言っても、こちらが素手であれば余裕で勝てるというわけではない。
今は1体を集中して攻撃しているものの、周りにはたくさんのモーラボールに囲まれている。
体はすでにボロボロだ。
だが、これは想定の内だ。
だからさっき、しっかり打ち合わせをしておいたじゃないか。
僕は、カメラを上壁に向け、フラッシュをつけて、シャッターを切った。
すると、打ち合わせ通り、櫻良が手のみを入れて回復料理を入れてくれる。
こんなボロボロになった姿を櫻良に見せるわけにはいかないからな。ちゃんと釘を刺しておいてよかった。
味わう暇もないが…っと。
もちろん完全復活だ…!
モーラボールの素魂量は確か450。
一撃でどれくらい素魂量を減らせているかはわからないが、1体に集中して殴りかかっているんだから、もう十分に殴れてはいるだろう。
これをひたすらに続ければ、必ず倒すことができるはずだ。
…っと、アリエボにメッセージ通信が。
『魔敵の素魂量の残量はこのアリエボを介して知ることができるぞ。ぜひ役立ててくれ。』
…ずっと監視されてんのかよ。というか、早く言え。
さてさて…今ずっと殴ってるやつの残魂量は、80…?僕の素手、意外と強いのか…?
だったら、話は早い。ここにいるモーラボールを、この素手と櫻良の力で粘りつつ狩りつくすだけだ。
1体目、2体目、3体目…
櫻良の回復能力を乱用しながら狩っていく。
4体目…5体目を倒した時、体全体に衝撃が走った。
初めての衝撃的な感覚だったが、言わずもがな、これが趣味の機能拡張完了の合図であるということが肌感として理解した。
『アリエボには自分の取得した能力を把握することができる機能がある。うまく活用してくれ。』
そんなことが…?この世界のルールを根底から否定するようなことができてしまっていいんだろうか?
しかし、今頭を使える余裕があるわけではない。ありがたく使わせてもらおう。
"カメラに写したものを復元・削除・複製する能力(小)"
なるほど…こりゃ使えるな。
僕は周りにいるモーラボールをいくつか、試験的にカメラのシャッターで切り取った。
そして、
「削除!!!」
うーん、こんなに簡単に経験値を獲得することができてしまっていいのだろうか?
ともかく、これで準備が半分整った。
さて、戻るか――
素魂量について
魔敵毎に定められた体力のことです
また、残魂量とは、残り体力の事です