趣味と連行は唐突で
さて、そんな"それ"の2人が家にようやく帰り着いたというとき。
ただの教場帰りであるというのに、本当に色々と大変だった。
「さくらーご飯作ろっか。」
「あ、買い出しありがとね~
今日は何買ってきてくれたのー?」
「昨日ミート系だったから、今日はフィッシュ系かなーと思って、ムクスラーフィッシュ買ってきたよ。」
「おぉーー!!流石お兄ちゃん!!私の好みちゃんと理解してるね!??」
「流石にわかってるよ、何年の付き合いだと思ってんだよ。」
「じゃあ、んー、私趣味の経験値稼ぎたいんだけど、いいかな?」
「もちろん、じゃあ櫻良にお任せするね。」
「任せて~!」
櫻良はそう言って、先ほどリンプリザードから取り返したフライパン含め、色んな料理道具を取り出した。
…そういえばさっきは外で何を調理していたんだろうか?
危ないことをしてなければいいのだが。
まあ、そんな些細なことを気にしてたらいくつ脳があったとしても足りないのでやめておこう。
「お兄ちゃんできたよ~!ムクスラーフィッシュのレモンバターソテー!」
「おぉおぉ…流石料理の趣味だね…そもそも出来上がりが早いし、僕が作るよりおいしそう」
櫻良はにこにこ顔でこちらに視線を送ってくる。料理を並べるのを手伝い、席に着く。
そして、"いただきます。"の合図で食べ始める。
櫻良の作る料理は体中が満たされるすばらしさなのだ。
実際、櫻良の能力は料理を食べた人の体力回復というものだし、どこをとっても最高だ。
「ふはぁぁぁ~おいしかった~!」
「お粗末様でした。」
「すごいおいしかったよ。いつもありがとね。じゃあ、片づけは僕がやっておくね。」
「じゃあ私道具の整備に集中するね~!」
さて、作業がひとまず終わり、一息つこうだなんて考えていた矢先に、突然、鍵が閉まっているはずのドアが開いた。
「色美祢才斗さんに、源好櫻良さんですね。我々についてきてもらいます。拒否権は与えられません。」
そんな見るからにやばそうな言葉を、見るからにやばそうな服装の人たちが言ってくるのだから、ただただ恐怖を感じるばかりだ。
そんな悠長な思考はさせてやらないと言わんばかりに、僕の体には魂が離れていく感覚が襲ってくる。
「才斗くん?!…人くん!?」
…櫻良の声が遠くなってきた。
視界にはもう、虚空が映し出されていた。
その瞬間、また誰かが倒れる鈍い音がした。
僕という名の抜け殻は、今をもって意識が停止した。
ムクスラーフィッシュについて
ただの"おいしい魚"って意味です。
繫殖数も多く、よく市場に出回りますし、みんな大好きな食材です。