表面上の幸せ
「カメラの中に収めた全ての生命体を切り取る、というものなんだ。
あまりにも危険すぎる。」
「…それって、どんな相手でも戦わずして戦闘を終わらせることができるってこと?」
「もちろんそうなんだけど、
でも、さ…」
「ん?どうしたの?」
「えっと、いや…対象は"全ての生命体"だからさ、
シャッターを切るタイミングで人が入ってもそれを切り取ってしまうってことで、むやみには使え――」
「なんて!?人も含めて切り取られることを知ってるのって…今その人は?!」
「――分からない。今の時点で知る手段がないんだ…。」
そう、この趣味のやっかいなシステムとして、 手に入れた段階で自分の能力を知る手段はない、というのがある。
脳内を整理しながら自分が発現した趣味の邪悪さの本質を話したところで、櫻良との会話はぴたりと止んでしまった。
それはもちろん、険悪な雰囲気になったからでもある。
まだはっきりとは言えないが、一度切り取った対象物が二度と戻せない可能性は少なからずある。
それを知った上ですぐに空気を取り戻すことは少々難しいだろう。
だが、今回の場合はそれが根源ではなかった。
決定的だったのは、沢山のAマートの利用者に囲まれていたからだ。
傍観者たちがざわめき始め、騒ぎは連鎖し、気づけば、まるで指名手配犯が包囲されたような空気に変わっていた。
僕が何か注目を浴びるようなことをしただろうか?
いや、少し会話の声が大きかったのだろうか。
予想はことごとく外れていた。
聞き耳を立ててみれば、
「あの数のリンプリザードを、一瞬で、しかも灰も残さず屠ったぞ!!」
だと。
確かにリンプリザードはその名前から推測できる通り、ふにゃふにゃで物理的に倒すことが難しいことで有名な魔敵であるから、確かに大半の人からすれば、あの速度で処理することは容易ではないだろう。
しかし、今回の場合は倒したというよりは、その場から抜き取ったという方が正しいのであって、
なんて蛇足な考えが頭に浮かんできていたのも束の間。
その場には、櫻良の友達?同級生?も、どうやらいたようで、櫻良は渾身の赤面であたふたしている。
「櫻良、一旦離れようか。ここ。」
何かを思い立ったように――いや、実際には何も考えてなどいなかった。
ただ衝動的に、櫻良の手をつかみ、足早にその場を離れようとした。
しかしながら、その姿は、はたから見れば"それ"にしか見えないもので。
さらに加速する多方面からの黄色い声援は、二人にとって、初めてで複雑な経験であった。