プロローグ
「霞!」
男が強い衝撃により倒れる
薄れゆく意識の中、見えるものは何度も死闘を繰り広げた因縁の相手だった。ふと腹部に目をやると大きな棘が刺さっている。彼はそれで涙を流している事を理解する。
「…なんで、お前は泣いている?」
「俺たちは…敵なんだぞ?」
「当たり前だよ、俺達は敵だったけど友達なんだから!」
「火野…」
「霞!」
男は腹部の痛みを涙に変えて、彼に訴える
今から死ぬ自分の手とは真逆に、彼の手はとても温かく『火の剣士』に相応しい人間であり、男は彼の笑顔を見て後悔した
(お前らと仲間だったらって…あんまり考えたくないな…)
「絶対にあいつを倒してくれ…俺が壊そうとした世界を救ってくれ…」
「わかった…! 約束は絶対に守る!」
彼は強く男の手を握りしめて誓った。
「初めての友達が…お前でよかった…」
瞼が重くなる、『死』に身を任せゆっくり閉じる
耳は聞こえずとも彼が叫んでいることは手の温かさから理解した
(ようやく…死んでしまうのか…)
『死んでしまった』男は扉が開く音が聞こえた。
「どうも、シニーです!」
「は?」
目を開けると知らない空間に男は立っていた
そしてバインダーを持っている人形が目の前に立っている
「ここはあの世か?」
「そうでございます! あなたは死んでしまったので魂の情報を処理しないといけないんです」
目の前の『謎生物』は陽気に男に語り続ける
「なら、さっさと地獄に送ってくれ」
「…それを決めるのは私ではないのでご安心ください!」
「どういうことだ?」
『謎生物』はパチンと指を鳴らしたと思いきや、見えない場所からルーレットが現れる。『謎生物』は男に一本のダーツを渡しルーレットを回した。
「はい、これを持ってください」
「ちょっ…」
「はい、どーぞ!」
「どうぞじゃねぇ!」
「え?」
男が怒声をあげ静止させる、『謎の生物』はルーレットを止めて思い出したようにこめかみにコツンと拳を叩く
「そういえば、説明がまだでしたね!」
「そうだ! まず、なんだこれは!」
「くっそ、めんどくさいから説明しなかったのに…」
「おい、なんか聞こえたぞこのやろう!」
あからさまにめんどくさそうな声を出して肩を落とす。肘枕をしながら寝そべり煎餅を取り出す
「それでなんですか? 何か聞きたいことでも?」
「お前、話聞く気はあるのか?」
「そりゃありますよ、仕事なので」
「じゃあ、なんでルーレットの中に転生や天国が含まれてんだよ!」
「あー、それは確率ですね」
「確率?」
「ええ、生前に良いことや悪いことをした回数で変わります」
「天国の確率が思ったより、でかい気がするんだが?」
「あなたの行いから来ていますからね」
「誰が考えてんだよ! これ!」
「勿論、黄泉の神です」
「黄泉の神だと?」
『謎生物』はちゃぶ台を呼び出し、ちゃぶ台の上に乗っているお茶を飲む
「貴方達で言う、いわゆる『死神』ですね」
「死神ぃ!?」
「ま、ちゃんちゃらおかしいですよね〜」
「「いてっ!?」」
「たらい?」
シニーと霞の頭の上にたらいが落ちる。何故自分の頭にたらいが落ちてきたのか理解ができずに上を見るが何もない場所から落ちてきたと言うことに謎が深まる。
『No.506、上司を死神呼ばわりしていないでとっとと仕事をしろ』
頭をさすりながら「へーい」と答える
「端的に言えば貴方達の言う断罪をどう決めるかどうかなんて神には関係ないし、なんだったら人間の行いなんてどんなことをしようが公平に扱わないといけないんです」
「あなたは人間が確実に良いことしかしていないもしくは悪いことしかしていない人間なんて見たことはありますか?」
「勿論、ある」
「本当に?」
「何が言いたい?」
「自分よがりだったとしても良いことであれば良いことだし。結果論でいい事だったらいい事だし。過程だけでいい事であれば勿論いい事なんです。」
「曖昧が過ぎるな」
「そうですよ、ですがそれが貴方達人間です」
「神に裁かれることは名誉なことであり、人間にはその価値はありません」
「貴方達人間が同じ人間を裁くように、神を裁くのは同じ神だけなのです」
「わかったよ…」
「やる気になってくれましたか?」
「ああ、地獄の確立は高い俺がやることは変わらない、俺の洞察力さえあればこんなルーレット」
(なんだ…違和感が…?)
「さっきも言った通り、人間の行先は公平でなければなりません。我々は魂を公平に導かなければなりません」
「なに?」
「シンプルに言えばズル対策ですので、ご了承ください」
「生前がどんなに強かろうが逆上してもお前らに返り討ちにあうってことか」
「そう言うことですね」
「関係ないね、地獄の確立はでかいんだ」
男はルーレットにダーツを投げ込む
ダーツが刺さった場所は『転生』であった
「嘘だろ…」
「おめでとうございます、今日から新しい世界で人生を謳歌してください!」
「ふざけるなあ!」
「転生時の死は同じ日を繰り返されますのでご了承ください」
「おい、ま-」
「こうして『エレメンティア』の幹部である木場霞は異世界に転生する事になったのでした」
『さて、彼らが行先はどうなってしまうのだろうか見ものだな』
「先輩、この件に関して気になっていたんですね」
『彼に関しては新しい世界で償って誠実に生きて欲しいよ』
「魂に干渉は本当はダメですよ」
『勿論だ、我々は魂をあるべき姿に導くことが仕事だ。彼に対して一つも何かをすることはできない』
「私たちにとってはどうでもいいですけどね」
『No.506、次はこの魂達を頼む』
「わかりました!」
『死神』達が楽しく談笑している一方
「…くっそ、なんで俺が知らない世界で」
霞は野原の上で寝転がり、火の光を浴びながら流れ行く雲を見ていた
『君が普通に生きられた世界があればなって思って』
「これも償いか… ゆっくり楽しくこの世界を楽しむか」
「た、助けてくれぇ!」
「あ?」
木場霞は転生した世界で『普通とは違った』人生を改めて歩む事になる