９６話：バラシュ家の断絶
フォン・クライン家での生活が日々穏やかに過ぎる中、レンデは自分の過去と向き合う時が来た。ある日、エリスとともに庭でのトレーニングを終えたレンデは、リビングでエリスの家族と共に静かに過ごしていた。エリスの父親が新聞を読んでいたとき、レンデの実家、バラシュ家の断絶についての話題が出た。
「レンデ君、すでにご存知かもしれませんが、最近バラシュ家のことが報じられていました。」エリスの父親が静かに語り始めた。「王城の戦いで当主が亡くなり、バラシュ家は断絶してしまったそうです。今回の戦いで貴族の家系が半分は断絶しています。２年半たったいまでも、各地でその後の混乱が残っていて、戦後の収拾もまだ収まっておらず、大変な事態です。」
レンデはその言葉に一瞬凍りついた。彼は沈黙を守りながら、心の中で混乱と驚きを感じた。これまで知らなかった事実が、突然彼の目の前に突きつけられたのだ。
エリスが優しく話しかけてきた。「レンデ、どうか落ち着いて。あなたのことを心配している人たちはたくさんいるわ。今は一緒に前に進んでいきましょう。」
レンデは深く息を吸い込み、ゆっくりと吐き出した。彼は自分の感情を整理しながら、ゆっくりと口を開いた。「バラシュ家が断絶してしまったことを、目覚めてから初めて知りました。父が亡くなっていたことも、混乱の中で把握できていなかったんです。」
彼は少し苦しい表情を浮かべながら続けた。「実は、私が初等魔法学校時代に成績が良くなかったことから、父からは見放されていたんです。心の中でずっと傷を抱えていて、諦めていたんです。」
エリスはそっとレンデの肩に手を置き、優しく言った。「それはとても辛かったでしょう。でも、今は過去を受け入れて、未来に向かって進む時です。フォン・クライン家の人たちも、あなたのことを心から支えてくれています。共に新たなスタートを切りましょう。」
レンデはエリスの言葉に励まされ、少しずつ心の傷が癒えていくのを感じた。彼は深く頷きながら、エリスの温かさに感謝していた。
「レンデ君、今後のことを考える上で、もう一つお伝えしなければならないことがあります。」エリスの父親が、静かに話を始めた。「バラシュ家の屋敷ですが、現在は騎士団の直轄地となっており、以前の家臣たちの手からは離れています。」
レンデはその言葉を聞いて、少し驚いた表情を見せた。「直轄地ですか？それはどういう意味なのでしょう？」
エリスの父親は、少し間を置いてから説明を続けた。「バラシュ家の屋敷は、戦後に騎士団によって接収され、現在は駐屯騎士たちの宿泊所として使用されています。騎士団の指揮官が、戦争の混乱を収拾するために、旧バラシュ領を直轄地とし、家屋は彼らの居住空間となったのです。」
レンデはその情報に、静かに頷きながら、心の中で複雑な感情を抱えていた。「つまり、私の家は今や他人の手に渡ってしまっているのですね。」
レンデは静かに窓の外を眺めながら、エリスに話しかけた。「エリス、僕はもう過去を取り戻すことはできないと理解しました。バラシュ家の屋敷が騎士団の手に渡ってしまったことも、仕方がないことだと感じています。」
エリスはレンデの言葉に優しく微笑んだ。「その通りです、レンデ。戦争や混乱の中で、多くのことが変わってしまうことがあります。しかし、それを受け入れ、新たな一歩を踏み出すことが大切です。」
レンデは頷きながら、少しずつ自分の気持ちを整理していた。「以前は、すぐに過去を取り戻そうとしていました。でも、今は現実を受け入れ、新しい未来を築くことに集中するべきだと感じています。」
エリスはレンデの考えに共感しながらも、少し不安そうに話した。「レンデ、あなたが自立心を持っているのは素晴らしいことです。しかし、どんなに覚悟を決めても、心の中で抱えている傷や痛みが完全に消えるわけではありません。」
レンデはその言葉に軽く笑いながら答えた。「わかっています。心の傷は簡単には消えません。でも、少しずつ前に進むことで、過去の痛みと向き合いながらも、新たな未来を築いていけると信じています。」
