92話:輪廻の螺旋の空間で
レンデの意識が目を覚ますと、彼は無限に広がる異様な空間に浮かんでいることに気づいた。ここは物理的な存在感がなく、ただの暗闇の中に光の模様が螺旋を描きながら漂っている場所だった。全体的に色彩は変わり続け、深い藍色から神秘的な紫、そして漠然とした白銀色へと移ろう様子が見える。
空間全体は、目に見えない力で渦を巻きながら、漠然とした形状がぼんやりと浮かび上がっていた。渦巻く色彩は絶えず変化し、時折赤い火のような光が瞬き、青緑の霧が立ち込める。そこにはまるで生き物のような動きがあり、光の模様は連続的に変化しては消えていった。
「ここは一体…?」レンデは目の前に広がる光景を前に、現実感が薄れる感覚に囚われながらつぶやいた。光が渦を巻きながら周囲を包み込み、彼の意識を異次元の領域へと引き込むかのようだった。
「レンデ、この場所は輪廻の螺旋だ。」ヘルミオの声が、無限の暗闇の中で鮮明に響いた。「ここは魂が集まり、過去と未来が交錯する場所だ。物理的な世界とは違い、この空間は非常に不安定で、色彩も絶えず変わるのだ。」
「この色や渦は一体何なんだろう?」レンデは光の渦に吸い込まれる感覚に戸惑いながら尋ねた。「どうしてこんなに不安定なんだ?」
「この螺旋の空間は、魂の本質を映し出す場所だ。」ヘルミオの声は優しくも含蓄に満ちていた。「色彩が変化し、渦巻く理由は、ここが過去と未来の境界線であり、魂の流れを示すためだ。変化することで、魂の状態や意識の変遷を表しているのだ。」
彼の心の中に穏やかでありながらも声が響いた。「レンデ、ここはかつて私が存在していた場所だ。」
「ヘルミオ…ここがあなたがいた場所なんだね?」レンデはその声に驚きつつも、今の状況を理解しようと努めた。
「その通りだ。」ヘルミオの声は静かに続けた。「ここは魂が集まり、過去と未来が交錯する場所だ。お前の意識がここに引き込まれたのは、物理的な体が何らかの影響を受けているからだろう。」
レンデは自分の状態を確認しようとした。すると、彼の左足が螺旋のずっと下の方へと繋がっていることに気づいた。その先には暗い渦があり、まるでそれが彼の体と魂を繋ぐ糸のように見えた。
「これって…僕の体と魂がまだ繋がっているってことなの?」レンデは不安を感じながら、左足の感覚に注意を向けた。
「その通りだ。」ヘルミオの声は優しく響いた。「お前の魂はまだ物理的な体と繋がっており、この螺旋の下へとつながっている。螺旋を上に進めば、新しい命へと繋がるが、下に戻れば元の命に戻ることができる。」
「でも、どうすれば元の命に戻れるんだろう?」レンデは焦りながら尋ねた。「今、僕はどうすればいいんだ?」
「時間があまりないのだ。」ヘルミオの声には急かされるような響きがあった。「現実世界では、もう一年以上が経過している。お前がここで過ごしている間に、現実の世界では非常に長い時間が過ぎてしまっている。」
「一年も…?」レンデは驚きと焦りを感じた。「その間に何が起こっているのか、どうすれば戻れるのか全く分からない!」
「まずは、自分の内なる力を取り戻すことが最優先だ。」ヘルミオの声は冷静に続けた。「ここでの試練を通じて、自分の本質を理解し、魂の力を再確認することが必要だ。そうすれば、現実世界への道が開けるだろう。」
レンデはヘルミオの言葉に従い、自らの内面に深く入り込むよう意識を集中させ、自分の魂をみつめながら、痛みを乗り越えようと努力した。その過程で、ヘルミオとの魂の融合がさらに進み始めた。現在、彼の魂はヘルミオと約二割融合しているが、さらに一割の融合が進むにつれて、激しい光が彼を包み込み始めた。
「ヘルミオ、これは…」レンデは光の中で混乱しながらも、自分が進むべき方向を見つけるために全力を尽くした。
「その通りだ、レンデ。」ヘルミオの声はより一層深く、力強く響いた。「儂との魂の融合が進むことで、お前の意識は現実世界へと戻る準備が整っていく。」
光が一層強くなり、レンデの意識が激しい光の中に包まれていく。




