83話:王都包囲戦線への到達と再会
エリス、レンデ、そして警備兵たちは、2倍の馬の速さで王都包囲戦線に接近した。包囲軍の陣地に近づくと、周囲の兵士たちは彼らに対して警戒の色を見せ、馬を止めるように指示してきた。
「立ち止まってください!」一人の兵士が叫びながら、エリスたちの前に立ちはだかった。「この先は危険な区域です。あなたたちの身分を確認させてもらいます。」
エリスは素早く家紋入りの鎧を見せ、紋章が刻まれた家の証を示した。「私はフォン・クライン家のエリス・フォン・クラインです。ランズ領の軍と連絡を取るためにここに来ました。」
兵士はその紋章を確認し、警戒心を少し和らげた。「フォン・クライン家の紋章…確かにランズ領の軍と連絡があるようですね。少々お待ちください。」
兵士はすぐに通信のための兵を呼び寄せ、エリスたちを待機させた。しばらくして、ランズ領の軍の兵士が現れた。
「フォン・クライン家のエリス殿、お待ちしておりました。」腕章から副官らしき兵士はエリスたちに敬礼しながら言った。「私たちの指揮官にご案内いたしますので、こちらへどうぞ。」
エリスとレンデは指揮官に案内され、キャンプの中心にある指揮官のテントへと向かった。テントの中は、地図や戦略が広げられ、兵士たちの活動で賑やかだった。
「お待たせしました。」指揮官が言った。「フォン・クライン家のエリス殿、こちらが我々の指揮官です。」
その瞬間、エリスはテントの奥で慌ただしく準備をしていたアレクサンダー・フォン・クラインと目が合った。彼は驚いた表情でエリスを見つめ、そしてすぐに顔を明るくした。
「エリス!」アレクサンダーは急いで駆け寄り、妹を抱きしめた。「無事でよかった。どうしてここに?」
エリスは兄の胸に顔を埋め、涙をこらえながら答えた。「お兄さん、私は…家族が心配で。お父様が戦争の状況を心配していることもあって、何とかお手伝いをしようと思ってここに来ました。」
「お父様は心配しているでしょうね。」アレクサンダーはエリスの手を優しく握り、「でも、君が無事で本当に安心した。君の力がここでどれだけ役に立つか、すぐに見てみよう。」と答えた。
レンデは一歩下がり、アレクサンダーに敬礼した。「初めまして、アレクサンダー殿。私はレンデ・フォークス、エリス殿の護衛です。」(レンデはあえて偽名をつかった。)
アレクサンダーはレンデに軽く頷きながら、感謝の意を示した。「レンデ殿、ありがとう。エリスを安全に連れてきてくれて感謝しています。」
エリスとアレクサンダーの再会は、しばらくの間、涙と喜びに満ちたものであった。兄妹は互いに抱きしめ合い、再会の感動を分かち合った。戦争の厳しい現実が待ち受ける中で、この瞬間だけは、家族の絆が何よりも大切であると実感させられた。
「さて、エリス。」アレクサンダーは少し落ち着いた表情で言った。「君の力がここでどれだけ必要とされているか、これからしっかりと見ていこう。君の能力が、この戦局に大きな影響を与えることを期待している。」
エリスは決意を新たにし、「はい、お兄さん。精一杯頑張ります。」と答えた。
レンデも、エリスとアレクサンダーの再会を見守りながら、自分の役割を果たすべく心の準備を整えていた。王都の包囲戦は続き、エリスとレンデ、そしてフォン・クライン家の兄妹の運命が、新たな局面を迎えようとしていた。