70話:絶望の刻
翌日、レンデがランズ領に向けて馬に乗ろうとしているところに、
アレクサンダーが走ってきた。彼の顔には青ざめた表情と焦りが見て取れた。
「エリス、レンデ!」アレクサンダーは息を切らしながら叫んだ。「王都が陥落したとの知らせが届きました!」
「えっ…!」エリスは驚きと恐怖で目を見開いた。「王都が落ちたというの?それじゃ、私たちはどうすれば…」
「そうだ。」アレクサンダーは険しい表情で続けた。「王都が陥落した今、諸侯が連携しても、各個撃破されるだけだ。ランズ領と連携しても意味がないかもしれない。リーヴァルト王国の処断を待つしかない。」
エリスは震える声で言った。「それなら…私たちはどうすればいいの?」
アレクサンダーは深く息を吸い込み、決意を込めて言った。
「父と相談し、少しの間話し合いましょう。最終的には、あなたが逃げるしかないかもしれない。私はここに残り、領地の防衛を続けます。」
エリスの目に涙が溜まった。「アレクサンダー、そんな…!私が逃げるなんて…」
「エリス、お前が生き残ることが、家族と領地を守るための唯一の希望だ。」アレクサンダーは優しく、しかし決然とした声で言った。
「私はここで戦う。レンデ、頼む、お前がエリスを安全な場所まで送り届けてくれ。」
レンデはアレクサンダーの決断を聞き、深く頷いた。
「わかりました。私がエリスを守ります。アレクサンダー、どうか無事でいてください。」
アルフレッド・フォン・クライン家当主も、エリスとレンデの決意を理解し、最後のアドバイスを与えた。「エリス、レンデ、私たちの未来はあなたたちにかかっています。ランズ領との交渉がうまくいくことを祈っています。アレクサンダーも、できる限りのことをしてくれるでしょう。」
「ありがとうございます、父様。」エリスは涙を流しながら頷いた。
「私たちは最善を尽くします。」
数分後、エリスとレンデはエリスの母、リアナ・フォン・クラインの元へ向かい、最後の別れを告げる準備を整えた。リアナは静かにエリスを迎え入れ、涙を流しながら抱きしめた。
「エリス、どうか気をつけて…」リアナの声は震えていた。「私たちもここでできる限りのことをして、あなたたちを待っています。」
「母さん…」エリスは涙を拭いながら答えた。「必ず戻るから、ここで無事でいてください。」
リアナは頷き、エリスの手を強く握りしめた。「気をつけて、エリス。私たちはあなたの帰りを待っています。」
エリスは最後にリアナと抱きしめ合い、心に深い別れの痛みを感じながらも、決意を胸に領地を後にした。レンデと共に新たな道を歩む彼女の背中を、リアナは涙ながらに見送った。