67話:黒のオーブと裏切りの交渉
王都の王宮の会議室には、緊張が張りつめていた。重厚なカーテンが窓を覆い、控えめな灯りが部屋を照らしていた。外には戦場の煙がぼんやりと見え、空気は緊迫感で満ちていた。王とその側近たちは、リーヴァルト王国軍との交渉に臨むため、決断の時を迎えていた。
王は会議室の中央に座り、疲れた面持ちで目を閉じていた。彼の隣には、王国の代表団が座っており、優れた外交官や軍の指揮官たちが含まれていた。彼らの顔にも緊張と不安が色濃く浮かんでいた。
突然、会議室の扉が静かに開き、リーヴァルト王国軍の代表団が入ってきた。先頭に立っていたのは、黒いマントを羽織った黒い魔術師だった。彼の姿はまるで闇から現れたようで、冷たい視線が王都の代表団に向けられた。その後ろにはリーヴァルト王国の三軍大将たちが控え、威圧感をさらに増していた。
王はその姿を見た瞬間、顔色が一瞬で青ざめた。「こいつが…!」王は怒りに震えながら声を上げた。「こいつが我が国を裏切ったスパイか!」
黒い魔術師は冷酷な表情のまま、一歩前に出た。「おや、お気づきになりましたか?確かに、私はリーヴァルト王国のスパイですが、今は交渉の場において、平和的解決を目指しているのです。」
王の顔はさらに紅潮し、拳を握りしめていた。「平和的解決?この裏切り者が、どの口でそんなことを言うのか!」王の声は怒りと憎しみに満ち、会議室の空気は一層張り詰めた。
黒い魔術師は王の激怒を静かに受け流し、冷静な態度で言葉を続けた。「感情的になられては、交渉が進みません。私たちの要求は明確です。王都の開城と降伏、王族の捕縛、そして一定の物資とすべての武器の引き渡しです。」
その言葉に続いて、黒い魔術師はゆっくりと黒のオーブを取り出した。オーブは暗い輝きを放ち、まるで夜の星を閉じ込めたかのような不気味な光を発していた。王の目はオーブに釘付けになり、その冷たい輝きを見て、一瞬言葉を失った。
「これが…?」王は震える声で訊ねた。
黒い魔術師は冷たく微笑みながら、オーブを少しだけ前に差し出した。「このオーブには、私たちが収集した魂が封じ込められています。この力を持ってすれば、あなた方に更なる圧力をかけることができます。」
会議室の空気は一層重くなり、王とその側近たちは一斉にオーブに目を奪われた。オーブの冷たい光は、まるで深い闇の中に引き込まれるような感覚を与えた。
「そのオーブが…我々に何をもたらすというのか?」王はついに冷静さを取り戻し、問いかけた。
「このオーブの力を使えば、あなた方の意志に従わざるを得なくなるでしょう。」黒い魔術師は無感情に答えた。「我々の要求を受け入れれば、あなた方の安全を確保し、戦争の終結を助けるでしょう。拒否すれば、このオーブの力がもたらす結果を受け入れることになります。」
王はその言葉に深い憂慮を示しながらも、冷静に答えた。「我が国を守るために、最善の決断をしなければならない。だが、このような圧力に屈するわけにはいかぬ。」
黒い魔術師は冷たく微笑みながら、言葉を続けた。「感情も理解しますが、現実を見据える必要があります。交渉が進まなければ、さらなる圧力がかけられるでしょう。選択はあなた方に委ねられています。」
会議室の空気は重く、すべての目が王に集まった。王は深い溜息をつきながら、冷静に言葉を選んだ。「我々は冷静に判断しなければならない。このオーブの力を前に、今後の選択が我が国の未来を決定づけるだろう。」
黒い魔術師は静かに頷き、オーブをしまいながら言った。「それでは、王様。あなた方の決断をお待ちしています。」