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3話:王宮のひととき


ルーメリア王国の王宮内、壮麗な図書室には、静寂が漂っていた。古びた木製の棚には、数え切れないほどの古代の書物や魔法書が整然と並び、その一角でヘルミオ・カスティウスは、古びたローブを身にまとい、慎重に一冊の書物に目を通していた。彼の長い白髪とひげは、時の流れを感じさせるもので、目尻には深いシワが刻まれている。


「ヘルミオ様、お茶をお持ちしました。」メイドのエリザが静かに声をかけ、温かい紅茶の入ったトレイをテーブルに置いた。彼女の目には、いつも通りの優しさが宿っていたが、最近の王宮の空気はどこか重く感じられる。


「ありがとう、エリザ。」ヘルミオは優しく微笑んで、紅茶のカップを手に取った。彼の目は、その背後に潜む問題に対する静かな憂慮を隠しきれていなかった。


王宮では、最近王位継承権を巡る争いが激化していた。王の健康が不安定であるため、王位の継承を巡る問題が急浮上し、王族間での対立が日増しに激しくなっていた。この状況に対して、ヘルミオは中立の立場を貫こうとしていた。



その日の午後、王宮の広間では、王族たちによる会議が行われていた。王族たちは、王位を巡る争いについて熱く議論しており、ヘルミオはその議論を冷静に見守る役割を担っていた。


「次期王位を継ぐのは、やはり私の方が適任です!」長男であるアラン王子が声を荒げて言った。


「王位は、より有能で国民から信頼される者が継承すべきです。」妹のリリス王女が冷静に反論した。「私たちの国をより良くするためには、適切なリーダーシップが必要です。」


ヘルミオは、両者の主張を静かに聞きながら、自分の意見を述べることなく、ただ彼らの意見を記録していた。彼は、王族のいずれの側にも偏らず、中立の立場であることを貫いていた。



会議が終わり、王族たちが退室した後、ヘルミオはひとり広間に残り、深いため息をついた。王位継承問題は、彼にとっても深刻な悩みの種だったが、王宮の筆頭魔法士として、自らの立場を超えて中立を守ることが最も重要だと感じていた。


その時、エリザが静かに広間に入ってきた。「ヘルミオ様、いかがなさいますか?お疲れのようですね。」


「ええ、少し疲れたね。」ヘルミオは穏やかな声で答えた。「ただ、私の役割は王族たちの意見を公平に記録し、何かを決定することではない。それが私の使命だと思っている。」


「しかし、王位継承の問題が続く限り、王国の未来が心配ですね。」エリザは心配そうに言った。


「そうだね。しかし、私ができることは、できる限り中立を保ち、王国の安定を支えることだけだ。」ヘルミオは自分を鼓舞するように、心の中で決意を新たにした。



翌日、ヘルミオのもとには、アラン王子が訪れた。彼の顔には、普段の冷静さを失った焦りが浮かんでいた。


「ヘルミオ様、私に力を貸していただけないでしょうか?」アラン王子は、頭を下げるようにして頼んできた。「私の立場を理解し、公平にサポートしていただけると信じています。」


ヘルミオは冷静に答えた。「アラン王子、私の立場はあくまで中立です。私が力を貸すことはできませんが、あなたが正しいと信じる道を進むことを応援します。」


アラン王子は、納得できない様子で頷いたが、ヘルミオの決意に感服した様子も見受けられた。「わかりました。ありがとうございました。」



日が過ぎ、王位継承問題は依然として解決を見ないままだったが、ヘルミオは引き続きその任務に徹していた。王宮での生活は、次第に緊張感を増していたが、ヘルミオは自身の中立の立場を守り続けることに努めていた。


彼の書斎では、古びた書物とともに、未来の王国の平穏を願う彼の祈りが静かに続いていた。ヘルミオは、王国が安定し、王族の間に和解が訪れる日を心から願いながら、自分にできることを淡々と続けていた。


そして、彼は再び自分の仕事に戻り、冷静で中立な立場を守り続けることで、ルーメリア王国の未来に少しでも貢献できることを信じていた。

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