196話:ポイズンウィーバー
巨大なポイズンウィーバーが鋭い足音を立てて天井を這い回り、目を光らせていた。その瞬間、壁や床、天井に張り付いていた無数の卵が一斉に震え始め、中からポイズンウィーバーの幼体が次々と孵化し、這い出してきた。
「まずい、どんどん孵化してきてる!」リュウが剣を振りかざし、次々と近づいてくる幼体を斬り払ったが、次々と現れる蜘蛛に圧倒されていた。
「数が多すぎる!」マークも盾で応戦しながら叫ぶ。蜘蛛の幼体は素早く動き、彼らを取り囲んで一斉に襲いかかってきた。
「ジェシカ!なんとかして!」リュウがジェシカに声をかけたが、ジェシカもまた風で毒霧の拡散を防ぎつつ、蜘蛛を撃退するのに手一杯だった。
「くっ…!風だけじゃ追いつかない!」ジェシカは風を操り、毒霧を押し戻そうとしたが、蜘蛛たちはそれでも止まらない。
「このままじゃ全滅する…!」レンデは焦りを感じつつも、必死に考えを巡らせた。氷の魔法で凍らせるだけでは、この数の敵を完全に封じ込めることはできない。それどころか、卵がまだ残っている今、さらなる脅威を防ぐには別の手段が必要だった。
「もう一つ手はある…!」レンデは意を決して呟いた。そして、両手に炎の魔法を込め始めた。
「レンデ、まさか…!」ジェシカが驚いた声を上げる。
「やるしかない!このままだと全滅する!」レンデは叫び、手の中に巨大な炎を作り出す。「行くぞ…!全て燃やし尽くす!」
彼は咄嗟に決断し、火の魔法を最大限に展開した。すると、鮮やかな赤い炎が部屋全体に広がり、蜘蛛の糸や卵、そしてポイズンウィーバーの幼体を一気に飲み込んだ。
「熱い!」リュウが後退しながら叫んだが、レンデの炎は蜘蛛たちだけを狙い、瞬く間に部屋中を燃え上がらせていく。
一瞬の静寂の後、炎が卵や糸を焼き払い、幼体を焼き尽くす音が響いた。毒霧すらも炎によって消え去り、やがて炎が静まると、部屋には焦げた残骸と黒い煙が立ち込めるだけとなった。
しかし、その後すぐに別の問題が発生した。氷の魔法で凍らせていた卵や壁が、急激な熱によって溶け出し、部屋中に大量の蒸気が発生した。レンデは焦りを感じたが、奇跡的に爆発は起こらず、蒸気は穏やかに天井に立ち昇り始めた。
「蒸気が…でも、爆発はしてない…?」ジェシカが驚いた顔で周囲を見回した。
「どうやら上手くいったみたいだな…」レンデは額の汗を拭いながら、安堵の表情を浮かべた。氷の魔法が先に発動していたことで、急激な熱を相殺し、家が吹き飛ぶこともなく残されたのだ。
「さすがだ、レンデ!」マークが感謝の意を込めて肩を叩く。
「これで…全部終わりか?」リュウが周囲を警戒しながら尋ねた。
「いや、まだだ。」レンデは天井に残る巨大な影に視線を向けた。最後のポイズンウィーバーがまだ動き出そうとしていた。
「やるぞ、最後の仕上げだ!」レンデは再び氷の魔法を構え、仲間たちも武器を握り直し、最後の決戦に備えた。