194話:北の家
古びた家の前に立ったレンデたちは、その不気味な佇まいをじっと見つめていた。年月が経ち、壁はひび割れ、屋根は崩れ、内部には何か恐ろしいものが潜んでいる気配が漂っていた。
「何か…強い瘴気を感じるわ」リュウが警戒しながら、剣を手に前進した。
レンデは不安を覚えながらも、隣に立つジェシカの方を見た。彼女はいつものように落ち着き払っていて、風を読むように穏やかに家を見つめている。年上で頼れる存在であるジェシカの姿に、レンデは少し気が楽になった。
「気をつけろ、ここにはただの魔物じゃないものが潜んでいる。」マークが盾を掲げ、グループを守るように立ちはだかった。
突然、家の中から低く重い声が聞こえてきた。
「お前たち…何者だ?ここに何の用だ?」
その声は獣のような荒々しさを持ち、人語を話している。暗がりから姿を現したのは、異形の狼、ミュータントウルフの上位種だった。通常の狼よりはるかに大きく、その赤く輝く瞳が不気味に光っていた。
「お前たちがこの家に入ろうというのなら、歓迎しよう。しかし、中にいるものが全てを支配している。私の役目は終わった。」
ミュータントウルフは冷たい笑みを浮かべ、まるで罠に誘い込むかのように家の方へ視線を送った。
「何かがいるのか?」リュウが剣を構えながら質問した。
「そうとも…中にはもっと恐ろしい者が待っている。私はその者に仕える下僕にすぎん。」狼はその場で消えるように姿を隠し、森の暗闇へと姿を消した。
「どうする?」レンデがジェシカに問いかける。
ジェシカは静かに考えた後、しっかりと前を見据えて言った。「行くしかないわ。警戒しつつ、全員気を引き締めて。」
レンデ、リュウ、マークは頷き、古びた家の中へと足を踏み入れた。扉を開けると、湿気を帯びた重い空気と共に、かすかに腐敗した臭いが漂ってきた。
「この匂い…瘴気だ。」マークが警戒を強め、盾を握りしめる。
「みんな、気をつけて。内部には何かがいるわ。」ジェシカは呪文の準備を始め、風を感じ取るように集中している。
突然、天井の奥から気配が動いた。それは瘴気をまとった巨大な蜘蛛、ポイズンウィーバーだった。紫色の毒霧がその体から漂い始め、部屋全体を覆い始める。
「毒霧だ、息を止めて!」ジェシカは素早く風の魔法を使い、毒を吹き飛ばそうとした。
「俺が足止めする!」レンデは氷の魔法を手に集中し、氷槍を形成。蜘蛛の足元に向かって放った。
氷の槍が蜘蛛の足に命中し、動きが鈍った瞬間、リュウが一気に飛び込み剣を振り下ろした。しかし、蜘蛛は素早く天井に逃げ込み、さらに毒の霧を撒き散らす。
「長引かせると危険だわ!」ジェシカが言うと同時に、彼女は強力な風を作り出し、瘴気の霧を一気に吹き飛ばした。風の勢いで蜘蛛がバランスを崩した瞬間、レンデが氷の魔法で蜘蛛を凍りつかせた。
「今だ!」リュウが叫び、全力で剣を振り下ろし、蜘蛛を真っ二つに切り裂いた。
レンデは息を整えながら、ジェシカに目を向けた。「助かった。さすがだな、ジェシカ。」
ジェシカは少し微笑んで肩をすくめた。「これからが本番かもしれないわよ。気を緩めないで。」
彼女の言葉に全員が緊張を取り戻し、さらに家の奥へと進んでいく。