187話:砂上の剣舞
朝の7の刻、リュウ、マーク、ジェシカ、そしてレンデの4人は準備を整え、王都から南へ向けて出発した。彼らの目的地は、岩と砂が混じる砂漠地帯だ。徒歩で6刻進む予定で、途中に一度の休憩を挟む。この場所は王都から20キロほど離れた位置にあり、岩が多く、視界の遮られる死角が多いため、彼らはいつでも戦闘に備えて慎重に進んでいた。
歩きながら、レンデは足元に注意を払い、周囲の風景を観察していた。風は王都の北にある海から南に吹き、硫黄のガス地帯が近づくにつれ、空気が重く感じられる。だが、この少量の硫黄ガスは南側の丘の向こう側にあり、さらに海から吹く南風によって王都には届かないため、特に気にすることはない。彼らはガスの影響もなく足を止めることなく進んでいった。
地面が砂に変わり始めた頃、リュウが立ち止まり、手を挙げて合図を出した。「ここからは油断できないわ。岩陰や砂に隠れている可能性があるわよ。みんな、準備を怠らないで」と言うと、他の3人もその場で立ち止まり、周囲を確認した。
マークが背中の剣に手を回しながら盾を構えて前に出る。少し緊張した答えた。「あぁ、この辺りから奴が砂と岩に紛れていると厄介だ。盾を前にして進むが、攻撃には即座に反応できるようにする。」
4人は、マークを先頭にし、砂漠の不規則な地形を慎重に進んでいた。足元の砂の動きに注意を払いながら、一歩一歩、砂が盛り上がっている場所や動く兆候がないか確認している。
「1匹目は慎重にやろう」とリュウが静かに言った。緊張が走る中、全員が周囲に目を配り、息を潜めて進んでいく。
その時、ジェシカが右手の砂がわずかに動いたのを見逃さなかった。「あそこ!」と低い声で叫ぶ。
全員が即座に武器を構え、ジェシカが指し示した方向に目を向ける。ジェシカは一瞬の躊躇もなく、そのあたりに風の魔法を放った。風が砂を巻き上げ、瞬く間にその付近を覆うと、怒ったデューンサーペントが砂から飛び上がり、体を露わにした。
だが、デューンサーペントはすぐにカモフラージュを使い、その巨大な体が砂と同化し、姿が見えにくくなる。
「任せろ!」レンデが叫び、同じ場所に岩の魔法を発動させた。砂が一部岩に変わり、その上にデューンサーペントの体が露わになる。カモフラージュを使っていたはずのサーペントは、突然現れた岩の上で、全身がはっきりと見えるようになった。
「今だ、攻撃しろ!」リュウが叫び、全員が一斉にデューンサーペントに向かって攻撃を仕掛けた。
マークはすでに構えていた大きな盾をしっかりと前に出し、素早く背中の剣を引き抜いた。その剣は、赤みを帯びた光を放ち、夕日の反射を受けて輝いている。重厚な体を支えながらも軽やかに前進し、デューンサーペントに向かって一気に走り寄った。
盾をしっかりと構え、砂煙を巻き上げながらデューンサーペントの目前に到達したマークは、敵の攻撃に備えつつも、その瞬間を見逃さなかった。鋭い目でサーペントの動きを読み、次の動作に移った。
「行くぞ!」と低く叫ぶと、彼は全力で剣を振り下ろした。赤く光る刀身が空気を切り裂き、サーペントの巨大な体に正確に狙いを定める。まるで抵抗がないかのように、マークの剣はデューンサーペントの胴体に深く食い込み、一刀両断するかのようにその体を真っ二つにした。
サーペントの断末魔の叫びが響き渡り、砂漠の静寂が一瞬にして訪れた。切り離された体が砂の上に倒れ込むと、砂煙が舞い上がり、彼らの勝利を告げるようだった。
リュウはデューンサーペントの巨大な体が崩れ落ちるのを見届けると、満足そうに息を吐いた。そしてマークのほうへ視線を向け、軽く笑いながら声をかけた。
「やったな、マーク。さすがだよ。」
だが、ふとマークの手に握られた剣に目を留めた瞬間、リュウの表情が少し険しくなった。赤みを帯びた刀身が、不思議な輝きを放ちながら微かに脈打っているかのように見えたからだ。
「その剣…何だ?」リュウが一歩近づきながら問いかけた。彼女の声には、いつもの軽い調子ではなく、どこか鋭い探りを入れるような響きがあった。
マークは剣を見下ろし、しばしの沈黙の後、口を開いた。
「買っちまった」