184話:鍛冶師の誇りとエルダイトの刃
マークは、いつもなら宴会の後に夜遊びへと繰り出すところだが、昨夜は珍しく宿屋に留まった。理由は明確だ――翌日、しっかりとした頭と目で武器の目利きをするためだ。彼の胸には、長らく目をつけていた「エルダイトのグレートソード」を手に入れるという決意が燃えていた。
翌朝、8の刻を少し過ぎたころ、マークは遅めに目を覚まし、宿屋の朝食を急いで済ませると、武器防具屋へと足を運んだ。普段から馴染みのあるこの店は、彼の武器メンテナンスをずっと任せてきた場所でもある。ドアを押し開けると、少し重い感触が伝わり、古びた店内の歴史が感じられた。店の裏には鍛冶場があり、店構えの古さとともに、鍛冶の音が背景に響いている。
店内には一般的なモデルの武器が並べられており、どれも手入れが行き届いている。だが、マークが目指すのはそんな品々ではない。今日は特別だ。彼は、受付の前に立つと、店主に低く真剣な声で言った。
「中位モデルを見せてくれ。」
店主は一瞬驚いた顔をしたが、すぐに無言でうなずき、奥の部屋へ案内した。そこには、普段は見せない高価な武器が並んでいる。そして、マークの目に飛び込んできたのは、「エルダイトのグレートソード」だ。
この剣は幅広の刀身を持ち、一見してその重量と威力がわかる。しかし、エルダイトという特別な素材のおかげで、驚くほどバランスが良く、扱いやすい。この素材には魔法攻撃を封じる特性があり、特定の属性攻撃に対して圧倒的な強さを発揮する。これは、盾を活かしながら強力な一撃を繰り出す攻撃的なスタイルの剣士に適している。マークは、まさに自分の戦闘スタイルにぴったりだと思っていた。
手に取ると、ずっしりとした重みが心地よく、剣を振る感覚が体に伝わった。表示価格は金貨1500枚――非常に高額で、手元にあるほぼ全ての金を使うことになるが、それでもこの剣を手に入れたい。今までのロングソードとはまるで別物だ。この剣でなら、どんな敵にも立ち向かえるという自信が湧いてくる。
「これしかないな…」
マークはその場で決意を固め、店主に話しかけた。
「これを買う。」
マークは「エルダイトのグレートソード」を手にし、その重厚な感触を確かめながら、店主の顔を見た。店主は鍛冶師としての腕は一級品で、筋骨隆々とした腕と肩がその証拠だった。大きな体に少し出た腹、鋭い三白眼でじろりとマークを見つめるその様子は、どんな細部も見逃さないという信念が伝わってくる。彼は店主としてだけでなく、職人としての誇りを持っていた。
「いい選択だ」と店主が低い声で呟く。
「だが、この剣はただのグレートソードじゃない。エルダイトの特性を引き出すために、最適な刃付けをしなければならない。2日は待ってもらう。俺の手で仕上げる。」
店主は大きな手で剣を受け取りながら、じっくりとその刀身を見つめた。そして、特徴的なエルダイトの性質について説明を始めた。
「この剣の素材は、魔法攻撃や属性攻撃を無効化する能力を持っている。火、氷、雷――どんな属性であろうと、この剣には効かない。攻撃に特化したお前のスタイルには、まさにうってつけだろう。だが、刃付けが重要なんだ。下手に急いで仕上げると、その特性を十分に引き出せなくなる。」
マークは、店主の真剣な説明にうなずきながら、納得していた。彼はこの店主の鍛冶の腕を信頼していたし、店主が剣に対して特別なこだわりを持っていることもよく知っていた。
「わかった。2日待つ。」
マークは全額の支払いをするため、手元の金貨袋を取り出して差し出した。金貨1500枚――大きな額だが、マークにとってはそれだけの価値がある。しかし、店主は頑固な顔で首を横に振り、金貨の袋を半分だけ受け取った。
「半額だけでいい。残りの半分は受け渡しのときに支払ってもらう。それが俺のやり方だ。」
この店主のこだわりにはマークも慣れていた。昔から、彼は商品が完成するまで全額を受け取らないという信念を持っていたのだ。どんなに急いでいても、この規則だけは崩さない。それが彼の職人気質であり、誇りでもあった。
「相変わらず頑固だな。でも、安心できるよ。」
マークは軽く笑い、店主に半額を渡すと、残りの金貨をしまった。そして、満足そうな表情で店を後にした。
「2日後だ。楽しみにしてるよ。」
そう言い残し、マークは宿へと帰っていった。