182話:リュウの交渉術
太陽が頂点を過ぎ、獣たちの食事時間が終わった頃、リュウたちは木にもたれて休憩していた。彼らの周りには、静かな森の音が広がり、葉のささやきや、遠くから聞こえる鳥のさえずりが心地よい。
「今日の獲物は十分だろう。スタッグが6頭、フォレストデアが4頭、それにフォレストベアまで。なかなかの成果じゃないか?」とマークが嬉しそうに言った。
「確かに、これだけ獲れればいいお金になる。」リュウも頷く。「でも、まだ奥に行けるんじゃないか?もっと大きな獲物がいるかもしれないし。」
ジェシカが首を振り、「確かに奥にはもっと獣がいるかもしれないけど、危険度も上がるわよ。今日はこれで十分だと思うけど。」と慎重に意見を述べる。
レンデは静かに考えながら、周囲の気配を感じ取っていた。獲物の確保に成功したことに安堵しつつも、さらなる挑戦をしたいという気持ちが心の中に渦巻いている。「もっと獲れるかもしれないけど、慎重に行動した方がいいね。特にフォレストベアのような強力な相手もいるんだから。」
休憩が続く中、マークは「もっと狩りに行きたい気持ちも分かるけど、仲間の安全も大切にしないと。俺は今日はこれくらいで満足だ。」と言い、周囲に目をやった。
「よし、それなら、今日はこれで帰るか。」リュウが提案し、みんなもそれに賛同した。
王都の南門をくぐると、血抜きが完璧に終わった獲物たちを、リュウたちはいつもの解体所へ運び込んだ。狩りを終えての長い道のりだったが、空間収納に入れられていた獲物は丁寧に扱われており、荷馬車でゆすられた形跡もない。新鮮な肉の状態は完璧だった。
解体所の扉をくぐると、内部は活気に満ち、解体作業に追われる職人たちが黙々と作業している。カウンターに立つ責任者がリュウたちを出迎え、手慣れた様子で獲物の状態を確認した。
「これはまた上質な品だな。スタッグもデアも、血抜きが見事にされているし、肉の張りもいい。フォレストベアもよくここまで無傷で運んできたな。相当な腕前だ。」
リュウは笑みを浮かべて「まあな。私たちは腕がいいんだよ。それで、買取の話に入ろうか。」と軽く言葉を返した。
解体所の責任者は頷き、獲物の評価に入る。「スタッグは1頭あたり金貨50枚、フォレストデアは1頭150枚、そしてフォレストベアは450枚。買取としてはかなりいい条件だとおもうがどうだい?」
「その通りだが、少し考えてくれ。」リュウがすかさず返す。「俺たちは今回、一度にこの量を持ち込んだんだ。それに、この解体所を選んで取引をしている。これまでだって何度も通っているお得意様だろ?少しは特別な価格があってもいいんじゃないか?」
責任者はリュウの言葉に少し考え込みながら、彼の目を見据えた。「確かに、君たちはいつも優れた獲物を持ち込んでくれる。そして、この量だ。一度にこれだけの獲物を解体するのも労力だが、確かに常連客に対しては何か恩返しをするのも悪くない。」
リュウは続けて、「そうだろ?俺たちを特別扱いしてくれるってことは、今後も大きな獲物をここに持ってくる確約ができるってもんだ。」
少しの沈黙の後、責任者は笑顔で頷いた。「いいだろう。追加で金貨10枚を上乗せする。それで取引成立だ。」
リュウは満足そうに「ありがとうよ。これで俺たちも安心して次の狩りに出られる。」と応じ、レンデも内心リュウの交渉術に感心していた。
取引が終わり、リュウとレンデは他の仲間たちが待つ場所に戻り、買取額を報告した。「これで十分な稼ぎだ。今日の成果は上出来だな。」