175話:感じる視線
レンデは宿屋の食堂で朝食を終え、主人からの警告を受けた後、心の中で冷静に状況を整理していた。王都の規定を思い出しながら、危機感がじわじわと広がっていく。
「王都内での魔法行使や流血行為は禁止か…だが、これは騎士に見られた場合にのみ罰せられる。つまり、バレなければ罪にはならないってことだ。」
そう考えると、宿屋を出た瞬間から襲撃される可能性がある。危険はどこにでも潜んでいる。しかし、いくら稼ぎが狙われているとはいえ、戦闘や無理な魔法の使用は避けたい。レンデは深く息を吸い込み、慎重に策を練り始める。
「どうする…騎士団まで安全に辿り着くには?」
彼はしばし考えた末、ひとつの案にたどり着いた。「隠蔽魔法」を使って、周囲に気づかれずに移動することだ。自分の気配を消し、騎士団の詰め所まで歩くことができれば、危険を避けられるだろう。
「この宿屋を出たところから、次のブロックを曲がるまで気配を消して行くか…」
レンデは立ち上がり、宿のドアへ向かって歩き始める。ドアノブに手をかける前、周囲の視線を確認し、ひとりごとのように静かに呟く。
「よし、行くか。」
ドアをゆっくり開け、外の冷たい朝の空気が頬をかすめる。人通りは少なく、通りはまだ静まり返っている。彼は軽く息を吐き出し、意識を集中させた。そして、気配を消すための「隠蔽魔法」を発動した。
一瞬で、彼の存在感が薄れた。宿屋を出た時点から次のブロックを曲がるまで、レンデはまるで影のように静かに通りを進む。街並みの向こうに騎士団の詰め所が見え始めたとき、彼はふっと隠蔽を解いた。
「これでひとまず安心だな。」
彼は気を引き締めながら、さらに足を進め、騎士団の詰め所へと向かうのだった。
レンデは騎士団の詰め所に近づくと、ふと背後から何か重たい視線を感じた。誰かがこちらをじっと見ている。訓練で磨いた感覚が警告を発していた。
「見られている…」レンデは内心で警戒し、周囲を見渡すが、明確な姿は確認できない。だが、確かなことは、注意を払わなければ、今後の行動が見透かされる可能性が高いということだった。
「また出る時に気をつけないといけないな…」
頭の片隅でその警戒を抱えながら、レンデは騎士団の詰め所の扉を押して中へ入った。室内は簡素で、いくつかの書類が乱雑に積まれている。詰め所の受付には厳しい表情をした騎士が立っており、レンデは落ち着いて近づいた。
「すみません、先日のグリムドッグ討伐についてお聞きしたいのですが、特に騎士団の被害状況を知りたいと思いまして…」
受付の騎士はちらりとレンデを見上げるが、即座に眉をひそめ、首を振った。
「申し訳ありませんが、それに関する情報は極秘扱いになっておりまして、外部の者にはお教えできません。」
予想外の返答に、レンデは少し驚いたが、表情には出さなかった。騎士団が被害を受けたということは確かだが、その詳細は外には漏らしたくないらしい。
「極秘ですか…そうですか、分かりました。無理を言ってすみませんでした。」