161話:臆病者の報い
翌朝、レンデたちは再び南へ向かって進んだ。空はまだ薄明かりの中、静けさが広がっている。馬を進める彼らの前に、グリムドッグの群れが現れる。今回は6頭だ。リュウが前に出て手を上げ、全員に静かに警戒を促した。
「またか…」リュウがつぶやく。「いつも通りの戦術でいくぞ。」
レンデとジェシカは魔法の詠唱に入った。遠距離から魔法で数を削り、近づいてくる前にできるだけ頭数を減らす。レンデは風の切り裂き魔法を連続で次々と放ち、グリムドッグの数を減らしながら前進を遅らせる。ジェシカは「アエルスティア・ボルト」で圧縮した風を放ち、敵にダメージを与える。
「残りは俺たちに任せろ!」リュウがマークに向かって叫ぶと、2人は剣を抜いて突撃した。リュウの剣が鋭くグリムドッグの首筋を切り裂き、マークがもう一頭の急襲を防ぐために盾で衝撃を受け止め、カウンターで相手を斬りつけた。
6頭のグリムドッグは、彼らの連携攻撃に耐えきれず、あっという間に全滅した。倒れたグリムドッグの血抜きを終え、レンデがまたもや空間収納に死体を入れていく。空間の容量は限られているが、6頭程度ならまだ問題ない。
「順調だな。これなら、もう少し進めそうだ。」リュウが周囲を確認しながら言った。
彼らはさらに南へと移動を続ける。しばらくすると、谷に沿ってこちらに向かってくる人影が遠くに見えた。走っている。その動きがあまりにも急だったため、全員が瞬時に警戒モードに入った。
「誰かが…こっちに向かってくる。何かあったのか?」ジェシカが疑問を口にする。
「分からんが、慎重に様子を見よう。」リュウが剣を抜き、仲間たちに注意を促した。
走ってきたのは二人だった。息を切らしながらこちらに向かってくるその姿は、焦りと恐怖が滲み出ていた。
剣も盾も持っていない、自前調達をモットーとする傭兵としては失格だろう。
リュウが声をかけた。「おい、どうしたんだ?」
二人は一瞬顔を見合わせ、肩で息をしながら答えた。「俺たちは…襲われたんだ。朝方、グリムドッグの群れに…!なんとか逃げ出したんだが、仲間が…3人、あいつらのところに残してきた…」
ジェシカが不快そうに眉をひそめる。「それで、お前たちは仲間を置いて逃げてきたってわけ?」
息を整えようと必死な様子の一人が、気まずそうに視線をそらす。「数が分からなかったんだ。急に襲われて…あっという間に囲まれて…俺たちだって必死だったんだよ…」
レンデが冷静に質問を続ける。「グリムドッグの頭数は?いくついたんだ?」
もう一人が顔を曇らせて答える。「正確には分からない…。多かったけど、何頭かは倒せたかもしれない。でも、数える余裕なんてなかったよ…」
その言葉を聞いて、リュウが呆れた表情を浮かべた。「仲間を見捨てて逃げるとは、クズだな。」
マークが険しい顔で二人を睨みつけた。「そんな奴らのために俺たちが動くと思ってるのか?」
二人の傭兵は黙り込んだ。レンデたちは彼らを助けるつもりはなく、あくまで自分たちで状況を確認しに行くことを決めた。リュウが短く言い放つ。「場所だけ教えろ。それで十分だ。」
二人の傭兵は焦りながら、襲撃があった場所を説明した。レンデたちは情報を確認すると、二人に背を向けた。
「俺たちはそこに行くが、お前たちのことなんて面倒見きれない。ここで消えてくれ。」リュウの言葉に、二人の傭兵は何も言えずに立ち尽くしたが、レンデたちは振り返ることなく、その場を後にした。