160話:南の林の血痕
南の林にさしかかり、日が落ちる頃、レンデたちは野営の準備を始め、木の下に馬を繋いだ。周囲の音が次第に静まり、風の音と木々のささやきだけが響く中、突然、鼻をつく血の匂いが漂ってきた。
「この匂い…血だな。」リュウが眉をひそめ、周囲を警戒する。
「それに…うめき声が聞こえる。」ジェシカが耳を澄ませ、緊張が走る。
「慎重に馬から降りて、様子を見に行こう。」レンデが指示を出し、彼らは音を立てないように静かに歩き始めた。木々の間を進むにつれて血の匂いはさらに強くなり、やがて視界に入ったのは、惨劇の跡だった。地面には複数の死体が転がり、その周囲には引きずられた跡が残っていた。
「これは…一体何があったんだ?」マークが驚愕の声を上げる。周囲には5、6人ほどの死体が散らばっており、そのうちの一人はまだ息があり、かすかに動いているのが見えた。
「生きてる奴がいる。あいつだ。」レンデが声をかけ、慎重にその男に近づく。
「大丈夫か?何があった?」レンデが問いかけると、男は苦しそうに目を開けた。
「…グリムドッグの大群に…襲われた…」男は途切れ途切れに話しながら、痛む体を動かそうとする。
「こいつらは南のエリアを探索してたみたいだな。」リュウが傭兵の言葉に反応する。「まだ南にはグリムドッグが残っている可能性が高い。」
「まずは、この男を安全な場所に運ぼう。ここでは手当てができない。」ジェシカが提案し、全員が同意する。彼らは慎重に傭兵を担ぎ、先ほどの国境守衛まで戻ることにした。
国境守衛の施設に到着し、重傷を負った傭兵を守衛の施設に運び込む。守衛たちが状況を確認し、手早く手当てを始めた。レンデたちはしばらくその様子を見守ったが、守衛に任せて自分たちの野営を設置するために施設から少し離れた場所に向かう。
「ここなら守衛も近いし、安心して眠れるだろう。」リュウが周囲を確認しながら言う。
ジェシカが馬の手綱を外し、馬の世話をする中で、マークとレンデはテントを設営し始めた。夜の冷え込みに備え、焚き火の準備も整え、周囲に簡単な防御を施して警戒を続ける。森の中は暗闇に包まれ、焚き火の明かりが唯一の安心感を与える。
「今日はもう、ゆっくり休んで明日を迎えるしかないな。」マークが焚き火を見つめながら言った。
「今夜は交代で見張りを立てよう。グリムドッグがまた出てこないとは限らない。」レンデが続け、全員が同意する。