16話:教室へ
6月の初め、初夏の陽光が窓から差し込む中、教室の空気は薄い暖かさに包まれていた。外の校庭には青々とした芝生が広がり、さわやかな風が葉を揺らしている。こんな日には、普段ならば窓を開けて自然の気配を感じることができるはずだが、レンデ・バラシュの心はそれどころではなかった。
彼は病院の白いベッドから解放され、ようやく学校に戻ってきた。入院していた一週間の間に、彼の体は完全に回復したものの、精神的な傷はまだ癒えきっていなかった。教室に足を踏み入れると、その瞬間、彼の存在が注目を浴びることになった。
「レンデ、帰ってきたのか…」
ひそひそと囁き合うクラスメイトたちの視線が、一斉に彼に集まってきた。久しぶりに教室の空気に触れたレンデは、自分がまるでガラス細工のように扱われていることを感じた。彼の心は、冷たい汗でいっぱいだった。
教室の端に立ち、レンデは無理に平静を装おうとした。目立たないように、小さく、そして静かに過ごそうと決めていた。しかし、彼の心の中で、ずっと共にいたヘルミオが今、彼に話しかけていた。
「堂々としていればいいんだ、レンデ。」
それはヘルミオの声だった。彼の魂がレンデの内面で静かに助言をするたびに、その知識と経験が心の中で響くように感じられた。
レンデは深呼吸をしてから、教室の中心に向かって一歩踏み出した。クラスメイトたちの視線がさらに集まる中、彼は自分の存在を確立しようと決意した。ヘルミオの言葉を思い出し、自分に言い聞かせるように、ゆっくりと歩を進める。
「おはようございます、みなさん。」レンデの声は、自分の思いとは裏腹に静かで確信に満ちていた。
教室の空気が一瞬凍りついたように感じられたが、徐々にクラスメイトたちの間に無言の安堵が広がっていった。誰もが口を開かず、ただ彼を見守るだけだった。レンデはその沈黙が、彼に対する心配と戸惑いを物語っていることを理解した。