154話:遭遇戦
レンデとリュウたちは、丘を見下ろす稜線にたどり着いた。国境まではまだ1日の距離があり、だいたい50キロほど離れている。稜線からは広大な森といくつかの小さな集落が見えたが、遠くに国境の山々もかすかに見えていた。
「まだ距離があるな」とリュウがつぶやいた。レンデも頷きながら周囲を見回す。ここまでの道のりは比較的平坦だったが、これからが本格的な戦いの場となることを実感していた。
「この先が問題だ。グリムドッグが群れをなして動いている可能性が高い」とジェシカが言葉を続ける。
レンデは無意識に杖の位置を確認しながら、ヘルミオの声が脳裏に響くのを待った。彼の中に潜む年老いた魔術師の存在が、時折思いがけない助言をくれるからだ。だが、今は静かだ。
「50キロ先なら、今日中には接敵しないだろうけど、気を抜けない」とリュウが言い、荷物を確認している。レンデもそれに倣い、ポーターの雇用を考えていたことを思い出した。だが、幸運にもヘルミオの教えた空間収納の魔法を練習し、この数日でかなり使いこなせるようになっていた。いざという時には荷物を簡単に保管できる自信がついてきた。
「休憩を取るか?」とマークが提案したが、リュウは「いや、もう少し進もう。グリムドッグの活動範囲に入る前に、できるだけ距離を稼いでおきたい」と答えた。
空気はひんやりと冷たく、遠くで何か動物の鳴き声が聞こえた。レンデは前方をじっと見据え、これからの戦いに備えて、心を落ち着けるよう深呼吸をした。
「行こう」と彼は静かに言い、仲間たちと共にさらに先へ進み始めた。
突然、谷間を一列に駆け抜ける集団が視界に入った。レンデの心臓が高鳴る。グリムドッグか!?10頭の群れがこちらに気づき、急いで丘を駆け上がってくるのが見える。
「全員、構えろ!」リュウ・アケミの声が響く。2人は馬に乗ったまま、抜剣して盾を構える。レンデとジェシカ・フォードは魔法の詠唱を始める。数十メートルの距離が急速に詰まる中、レンデは魔法を放つ準備を整えた。
「風!」レンデが四連撃の風の魔法を放つ。大きな刃のような風が広く打ち出され、グリムドッグの足を薙ぎ払う。数頭が足と体が離れ離れになり、バランスを崩し、転がり落ちる。
しかし、戦況はまだ終わっていない。そのとき、一番後ろから、羊のような角を持つ黒い馬に乗った敵が近づいてきた。背中には人型の何かが乗っており、その存在は強い威圧感を放っている。
リュウがさらに声を張り上げた。「ジェシカ、レンデ、後方の敵を任せた!他の者はグリムドッグの群れを抑えろ!」