152話:国境線を越える脅威
レンデは、温泉地での3日間を楽しんだ後、フォン・クライン家の領地へ戻り、すぐに再び王都へ向かう準備を整えた。目的は騎士団の詰め所へ行き、騎士アレスに面会することだった。王都への道は馴染み深いものだったが、今回は何かが違うように感じた。空が少し曇っているせいか、街の雰囲気に落ち着きがなかった。
王都に到着したレンデは、馬を降りて騎士団の詰め所へと急いだ。いつもは静かで整然としている詰め所が、この日はどこか騒々しく、忙しさが漂っている。騎士や兵士たちが慌ただしく出入りし、受付でも緊張した空気が漂っていた。
レンデは受付に向かい、手早く事情を確認しようと声をかけた。
「すみません、騎士アレスに面会をお願いしたいのですが。」
受付の騎士は、バタバタと動く中で一瞬手を止めてレンデの顔を見上げた。
「アレス様?今は少し厳しい状況です。実は…」彼は少し声を潜めて話を続けた。「国境を越えてグリムドッグの群れが流れ込んできているという報告がありまして、騎士団が2部隊、すでに出発したところです。」
レンデはその言葉に一瞬驚き、表情を固くした。「グリムドッグ…!そうか、だからこんなに慌ただしいのか。」彼は周囲を見渡し、詰め所の中がまさに戦闘前の準備に追われていることを実感した。何かが起こる予感がひしひしと感じられた。
「それで…リュウ・アケミという傭兵が手紙を預けに来たと思うんですが、そのことについて確認できますか?」レンデがリュウの名を伝えると、受付の騎士はすぐに何かを思い出したように頷いた。
「ああ、リュウ・アケミ殿ですね。彼は特別任務枠で既に登録済みです。恐らく、今はもう部隊と一緒に出発しているでしょう。」
「特別任務枠?それはどういうことだ?」レンデは焦りがこみ上げてきた。彼が思っていたよりも事態は深刻なようだ。
「ええ、国境の防衛や魔獣の討伐などに関わる特殊な任務に従事する者たちのことです。リュウ・アケミ殿もその一環で動いているようですね。」受付の騎士は忙しそうに書類を整理しながら話した。
レンデはその言葉を聞いて「これはえらいことになったな…」と心の中でつぶやいた。このまま詰め所にいてもリュウたちには会えないと直感した彼は、すぐに決断した。「ありがとう、でも…彼らが出発する前に間に合うかもしれない。城門へ向かう!」そう言って、受付の騎士に軽く礼をして、レンデは急いで馬に乗り直した。
城門へ向かう道中、街の様子が以前とは違うことに気づいた。通常ならば賑やかな露店が並び、人々が楽しげに歩き回るこの通りも、今はどこか浮足立っている。露店の数も以前より少し減っているようで、街の住人たちも心配そうな顔をしていた。
通りすがりの市民がひそひそと話している声が聞こえた。
「グリムドッグの群れがまた現れたって話よ…国境付近で見た人がいるらしい。」
「それで、騎士団が動いてるんだな。ここのところ物騒な話が多いから…」
「市場も少し静かだし、露店も減ってきたな。心配だ…」
レンデはその会話を耳にしながら、胸の中に不安が広がっていくのを感じた。「本当に大事になってるな…これは早く行かないと。」彼は城門を目指してさらに馬を走らせた。
城門の近くに到着すると、そこでは出発の準備を整えた部隊が隊列を組んでいた。騎士たちの姿が見え、レンデはその中にリュウ・アケミの姿を探したが、すぐには見つけられなかった。息を整えながら、レンデは城門の付近を見回していた。