133話:夜の会話
明け方に出発した調査部隊は、国境まで到達してから三日目の夜を迎えていた。野営地には温かい焚き火が灯り、周囲の暗闇をほんのりと照らしていた。参加者たちはテントの中で休む準備を整えながら、明日から始まる任務について考えていた。
「国境越え、いよいよ明日だな。」リュウ・アケミが焚き火の前に座り、仲間たちに声をかけた。彼の顔には微かな緊張が浮かんでいたが、落ち着いた様子だった。「みんな、国境を越える準備は整ったと思うけど、何か新しい情報があれば教えてほしい。」
「そうね。」エリス・グレイが弓を手入れしながら頷いた。「前回の調査報告については知っているけど、最近の情報も含めて、何か新しい話があれば役立ちそうだわ。」
ジェシカ・フォードが口を開いた。「実は、最近の報告でいくつか新しい情報が上がってきているの。グリムドッグの情報だけでなく、さらに危険なモンスターが出現しているという話があるの。」
「危険なモンスター?」マーク・ドレイクが関心を持ち、顔を向けた。「どんなモンスターなんだ?」
ジェシカは少し考え込みながら続けた。「特大の牙が持ち帰られたという報告があるんだ。詳細はわからないけど、グリムドッグの範疇を超えた存在らしい。とにかく、かなりの規模で危険な生物だと思われるわ。」
「特大の牙?」シルヴァン・ローレンスが驚いた表情を浮かべた。「それはかなりの脅威かもしれない。今の私たちの装備で対応できるか心配になるな。」
「その通り。」リュウが頷き、真剣な表情で言った。「でも、私たちができるのは、今持っている情報と装備を最大限に活用することだ。万全を期して準備を整え、何が起きても対処できるようにしよう。」
「まずは、明日の国境越えに備えて、ルートや地形を再確認しよう。」マークが頷きながら話を続けた。「状況によっては迅速な対応が必要になるから。」
ジェシカもその意見に賛同し、「それと、念のために予備の装備や食料のチェックも忘れずに。何か問題が発生した場合に備えて、準備を万全にしておくべきだわ。」と付け加えた。
リリアンが笑顔で話を切り出した。「さて、どんな困難が待っていても、私たち全員で協力し合って乗り越えましょう!緊張しても、仲間がいれば安心だし、明日の出発に向けて心を一つにしていこう。」
焚き火の周りで談笑が続く中、ジェシカ・フォードがふとレンデの方に目を向けた。レンデは一人静かに焚き火の近くに座り、思索にふけっているようだった。ジェシカはその静かな姿に興味を抱き、少しの間迷った末に歩み寄ることに決めた。
「レンデ、ちょっといいか?」ジェシカは少し乱暴な口調で話しかけた。彼女の声には好奇心と少しの挑戦的なニュアンスが混じっていた。
レンデはジェシカの声に気づき、ゆっくりと顔を上げた。「はい、どうしました?」
ジェシカはその視線をじっと見つめ、「あんた、かなり使えるんだろ?」と切り出した。彼女はレンデの目の色に青みが混じっているのを見逃さなかった。青い輝きは、ただの色ではなく、確かな力の証であると彼女は感じた。
レンデは少し驚いたような表情を見せたが、すぐに冷静さを取り戻し、「ほどほどですよ」と、控えめな口調で答えた。彼は自分の能力について語ることにあまり積極的ではなかった。
ジェシカはその反応に納得したように、「その目の輝き、RANK6は到達しているだろ?」と続けた。彼女の目はレンデの瞳に鋭く注がれていた。彼女はレンデの実力を評価し、確信を持ったようだった。
レンデは短く頷いた。「はい、そうです。」
「なにかあったら、あんたが頼りだ、頼んだよ。」ジェシカは一言だけ、重みのある言葉を残すと、軽く微笑んでから、テントの方へと歩き出した。彼女の背中が夜の暗闇の中に溶けていく。
レンデは静かにその言葉を心に留めながら、焚き火の炎を見つめ続けた。ジェシカの言葉には、彼女の期待と信頼が込められていることを感じ、明日の出発に向けて心の準備を整えていった。
焚き火の周りでは、他の参加者たちがまだ話し合いを続けていたが、レンデはそのまま静かに自分の思索に戻り、夜が更けるのを待った。