123話:戦いのあと
ドゥームウルフの巨体が横たわり、周囲には焦げた匂いが立ち込めていた。火の渦がその全身を激しく焼き尽くし、黒煙と共にその雄大な姿を消し去っていた。魔獣の体からはまだかすかな炎がくすぶっており、その威力の凄まじさを物語っていた。
調査隊の二人が膝をつき、力尽きた様子だ。彼らは戦闘中に極度の疲労と緊張を強いられ、今はただ茫然として、助かった現実と目の前で起こったことに認識が付いてこられないのだ。
周囲を警戒していた騎士の一人が、経験と熟練の技で周囲の安全を確認している。彼の鋭い目つきと無駄のない動きからは、戦場での冷静さと熟達が感じられた。
レンデもまた、息が上がり、額に汗を浮かべながらその場に座り込んでいた。咄嗟の機転で火と風を組み合わせた火の渦でドゥームウルフを倒すことができたものの、その疲労感は計り知れないものだった。魔法を使った後の体力の消耗と精神的な緊張から、彼の体は限界に達していた。
しばらくして、警戒を怠らなかった騎士が口を開いた。「もう大丈夫だろう。周囲に敵はいないようだ。」その言葉に、ようやく緊張が解け、レンデは少しずつリラックスできるようになった。
騎士がレンデの方に歩み寄り、感心した様子で言った。「なかなかの魔術じゃないか。火と風をうまく組み合わせて、あのドゥームウルフを倒すとは、見事なもんだ。」
レンデは照れくさそうに頭をかきながら、「どうも…」と、簡潔に答えるだけだった。彼の内心では、自分の力を褒められることに驚きと少しの喜びを感じていた。
騎士とレンデは倒れた三人の元に駆け寄り、容態を確認した。残念ながら、彼らはすでに息をしておらず、命を落としていることが確認された。痛ましい結果に、レンデの心には深い悲しみと無力感が広がった。
朝の薄明かりの中、調査隊の一行は静かな動きを見せていた。指揮を受け継いだアレスが、その冷静で力強い声で隊員たちに指示を出していた。リナの死が隊の士気に重く影を落としていたが、アレスはその中で決断を下さなければならなかった。
「リナの死は非常に痛ましいが、私たちはここでこれ以上の無駄な犠牲を避けるべきだ。」アレスは隊員たちに向かって言った。「八人のうち三人を失った今、今回の調査はここで終了する。ウルフの牙だけを取り、その後、野営地を移して王都に戻る。」
隊員たちはそれぞれ黙って頷き、心に宿る痛みを抱えながらも、指示に従った。ウルフの牙を慎重に取り外す作業が始まり、冷たい朝の空気の中で、皆が一刻も早く帰路に着くことを願っていた。
「明け方には移動を開始する。」アレスの声が隊をまとめる。「全員、最後の確認を済ませて、準備を整えよう。」
周囲の景色はまだ夜の名残を残し、冷たく静かな空気が漂っていた。隊員たちは、遺体をそれぞれの馬に丁寧に乗せる作業を始めた。馬たちは幸いにも無事で、これからの長い帰路を支えてくれることになった。
「遺体は慎重に運ぼう。」アレスは命じた。「手綱を引いて、全員が協力して帰る準備を整えよう。」
隊員たちは、互いに助け合いながら、馬に遺体を乗せる作業を終えた。手綱がしっかりと引かれ、準備が整った馬たちが一列に並び、静かに待機していた。
「さあ、出発するぞ。」アレスの声が、隊員たちの心に希望の光を灯した。「王都までの長い道のりだが、しっかりと気を引き締めて行こう。」
隊員たちはアレスの言葉に応え、ゆっくりと進み始めた。馬に遺体を乗せ、手綱を引きながら、帰路へと向かうその姿は、困難を乗り越えようとする決意に満ちていた。朝の冷たい風が、彼らの心に少しでも力を与えてくれるように感じられた。
しばらくして、隊は無事に野営地を離れ、王都への道を辿り始めた。