118話:消えた調査員たち
調査隊が馬を回収し、再び馬で進む準備を整えた。リナが隊を引き連れ、馬の背にまたがりながら進行方向を指示した。街道に戻ると、雑草が茂って道が見えにくくなっていたが、それでも街道の痕跡がわずかに見える状態だった。
「街道はだいぶ荒れてきてるな。」リナが眉をひそめ、街道の状態を確認しながら言った。「でも、このまま進めば目的地にはたどり着けそうだ。」
レンデは馬の鞍から周囲を見渡し、街道沿いに何か見逃さないように注意を払った。草むらの中に埋もれている古い石の標識や、かつての街道の名残を感じ取った。隊は慎重に進みながら、時折道端の茂みを掻き分けて前進した。
やがて、街道から少し外れたところに、かつてのリーヴァルト王国の村があったと思われる場所に到着した。村の様子は異様に静かで、普段なら賑やかなはずの場所が異質な雰囲気に包まれていた。
「どうしたんだ、ここは?」アレスが馬から降りながら辺りを見渡し、周囲の空気に不安を覚えた。「村に人の気配が全くないな。」
レンデは周囲を歩きながら、村の畑を見て回った。普段なら作物を育てるために人々が忙しく働いているはずの畑には、誰もいない。草が生い茂り、手入れがされていない様子が目立った。「畑も放置されてる…これは単なる不在ではなさそうだ。」
村の中心に向かって進むと、静けさが一層深まった。家々の窓を覗き込んでも、中には誰もいない様子で、無人の空間が広がっていた。物が散乱していることもなく、まるで人々が突然消えたかのような静寂が漂っていた。
「誰もいないのか…?」リナが言葉を絞り出し、さらに前へ進もうとした。そのとき、井戸の近くからかすかにうめき声が聞こえてきた。
「聞こえたか?あそこからうめき声がする。」レンデが耳を澄ませ、声のする方向を指さした。「行ってみよう。」
井戸の近くに到着した瞬間、突然、薄暗い影が周囲から現れた。スケルトンやゾンビが現れ、さらにその中にはワイトと呼ばれる恐ろしい存在が混じっていた。ワイトは見た目はゾンビに似ているが、動きは素早く、剣や短剣を持ち、皮鎧を装備していた。
「うわっ、あれは…」リナが驚きの声を上げた。「スケルトンとゾンビが混じってる…それに、ワイトがいる!」
「ワイトって、普通のゾンビよりもずっと厄介だろう。」アレスが武器を構えながら言った。「注意しろ!」
ワイトの一体が鋭い目を光らせながら、剣を構えて突進してきた。スケルトンたちも弓を引き絞り、ゾンビたちはよろよろと近づいてくる。リナは冷静に指示を出し、隊員たちを指揮した。
「全員、構えろ!ワイトとスケルトンの攻撃を防げ!レンデ、君の魔法で何とかしろ!」
レンデは力を込めて魔力を練り、周囲に炎を巻き起こす準備を始めた。その間に、ワイトたちが徐々に近づいてきて、まるで生者のように鋭い動きで迫ってきた。
「お前たち…かつての調査員だったのか?」レンデが、ワイトの一体がかつての調査員だったことを察しながら言った。「どうしてこんな姿に…?」
ワイトは答えることなく、ただその冷徹な目でレンデを見つめ、剣を振り上げた。レンデはその姿に、かつての調査員たちがどうしてこんな姿になったのかを想像しながら、心の中で悔しさと憤りを感じた。
「彼らの死を無駄にしないためにも、今は立ち向かうしかない!」レンデが心の中で決意し、炎の魔法を発動させると、周囲に燃え盛る火の波が広がり、ワイトたちとその仲間たちを迎え撃った。
火の魔法が白熱し、村の中心に広がる炎がワイトたちとスケルトンたちを包み込み、彼らの姿が炎に飲み込まれていく。炎が静まる中、村の静けさが戻り、残されたのは焦げた廃墟だけとなった。