116話:燃やし尽くす
毒の沼の不気味な匂いが濃く漂い、隊は進むごとにその毒性の影響を強く感じていた。足元の湿地が毒に侵されていることに気づいたリナが、隊を引き止めた。「このまま馬を連れて進むわけにはいかない。この毒の沼が広がってる場所で馬を管理するのは危険だ。どうする?」
アレスが冷静に考えた後、指示を出した。「よし、チームから1名を馬を見守らせる。残りの7人は徒歩でここから先に向かう。誰か、馬の管理を引き受けてくれ。」
中年の男マルクスが手を挙げた。「俺がやろう。馬たちを管理しておくから、みんな気をつけて行ってくれ。」
マルクスが8頭の馬を見守ることになり、残りの隊員たちは徒歩での移動を開始した。リナが先頭に立ち、レンデはその後ろに続いた。歩く速度は遅く、慎重に進む中で、レンデは周囲の環境に気を配りながらも、心の中であるアイデアが浮かんでいた。
毒の沼を前にして、レンデはリナに提案を持ちかけた。「リナ、毒の沼を、地面ごと焼き払うのはどうだろう?火の魔法を使って、沼を一掃するって考えたんだけど。」
リナは驚いたように振り返り、眉をひそめた。「火で毒の沼を焼き払う?そんなことができるわけがないだろう。どれだけの火力が必要になると思ってるんだ?普通、そんなことは不可能だ。」
他のメンバーたちもリナの言葉に同意した。「確かに、そんな方法は現実的じゃない。毒の沼を火で焼き払うなんて、どうやっても無理だ。」
レンデはそれでも諦めず、リナに真剣に頼んだ。「それでも、やってみてもいいですか?万が一成功すれば、毒の沼を完全に取り除くことができるかもしれません。」
リナは少し迷ったが、最終的には頷いた。「わかった。やってみてくれ。ただし、もし失敗しても責任は取れないからな。」
レンデは意を決して、沼に近づいた。周囲を見渡しなにも飛び出したり襲ってこないか少し確認したのちに、魔力を練り始めた。彼の目には集中の光が宿り、魔力の流れが手のひらに集まっていく。レンデは深呼吸をし、心の中で火の魔法のイメージを固めた。
(火の沼、発動!)
レンデは心の中で唱えた。次の瞬間、彼の手から放たれた魔力が大気を震わせた。毒の沼の上に、炎の魔法が展開されていく。まず、火の魔法が沼の表面に広がり、じわじわと広がっていった。炎は毒のガスと化学反応を起こし、猛烈な勢いで沼の上に広がっていく。
周囲の隊員たちは、その光景に目を見張りながら、後退するしかなかった。炎の魔法が毒の沼を完全に焼き払っていく様子は、壮絶で圧倒的だった。毒の沼地は炎に包まれ、徐々に消失していった。
炎が毒の沼を焼き払った後、地面の様子は一変した。元々湿った、どんよりとした泥沼があった場所は、焼き尽くされた焦げた地面へと変わっていた。黒く焦げた大地が広がり、辺りにはまだ小さな炎がチリチリと燃えている。焦げた匂いが立ち込め、煙が薄く漂っている。
地面はところどころが割れ、煙を上げながら熱を放っていた。かつては毒に侵された泥の海だった場所が、今や炭化した地面となり、かすかな熱気が地表から立ち上っている。焦げた泥と焼けた植物の残骸が、地面に散乱しており、焼かれた部分は濃い黒色に染まっている。
時折、小さな亀裂からはまだほんのりと熱い蒸気が上がり、空気が揺らいでいた。地面の一部は硬くなり、黒い岩のような質感になっている。その周囲には焦げた木の枝や枯れた草が、残骸として散らばっている。焼けた地面は硬く、以前の湿地の柔らかさはどこにもない。