1話:賢者の栄光
ルーメリア王国の王宮には、かつての魔法使いの名声が色濃く残っていた。その中でも、ヘルミオ・カスティウスの名は、伝説として語り継がれていた。長い白髪とひげに覆われた彼の姿は、今や時の流れを感じさせるものとなっていたが、かつては数々の冒険を通じてその名を馳せた。
「ヘルミオ様、お早うございます。」朝の光が差し込む図書室で、メイドのエリザが静かに声をかけた。彼女の手には、温かい紅茶が乗ったトレイがあった。エリザは、長年ヘルミオに仕えてきた信頼のおける存在であり、彼の生活を支えていた。
「おはよう、エリザ。」ヘルミオは優しく微笑んだ。年齢と疲れのためにその微笑みにはかつての輝きが薄れていたが、それでもその温かさは変わらなかった。「ありがとう、紅茶をいただこう。」
エリザはトレイをテーブルに置き、軽くお辞儀をしてから言った。「今日は、若い弟子さんが先生にお会いしたいとおっしゃっていました。午後にお時間がありますか?」
「そうか…」ヘルミオは紅茶を一口飲みながら考えた。「彼には、若い頃の自分を見ているような気がする。会って話してみるとしよう。」
彼の言葉に、エリザは優しく頷いた。
ヘルミオの生活は、王宮内での静かな日々と自宅での平穏な時間に分かれていた。彼の家には、古代の書物や魔法書が所狭しと並んでおり、それらを整理することが彼の楽しみであった。だが、彼の心は時折過去の栄光と現在の静けさの間で揺れ動いていた。
午後、図書室で若い弟子が彼の前に現れた。青年の名はセリス、まだ若く、熱心な魔法使いの卵であった。セリスは興奮気味に話し始めた。「ヘルミオ様、こんにちは!今日はお時間をいただきありがとうございます。お話しできるのをとても楽しみにしていました。」
「こんにちは、セリス。」ヘルミオは穏やかな声で応じた。「どうしたのだい?」
セリスは目を輝かせながら、自分の魔法の研究について語り始めた。「最近、火の魔法に関する研究をしているんです。先生の過去の冒険を聞いて、どのようにしてその力を鍛えたのか、ぜひ教えていただきたくて…」
ヘルミオは静かに聞きながら、過去の記憶がよみがえってきた。彼はゆっくりと話し始めた。「火の魔法は確かに強力だが、使い方には気をつける必要がある。過去の経験から言うと、炎の力は慎重に扱わなければならない。力を持つ者ほど、その使い方に責任を持たなければならないのだ。」
セリスは真剣な表情でうなずきながら、メモを取っていた。「はい、先生のお言葉を胸に刻みます。」