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プロローグ



 何かに追われ、巨大な樹木の生い茂る深い森の中を、息を切らせながら疾走する一人の少年がいた。


 彼の名前は涼森(スズモリ)翔哉(ショウヤ)、16歳。三週間ほど前まで日本の某県立高校に通う、普通の高校生であった。


 現在、翔哉は先程まで一緒に居た斥候部隊のメンバー達とはぐれてしまい、邪神の兵隊である小型の蜥蜴人間(リザードマン)達に追いかけられている最中なのである。


 彼を追いかける15体の蜥蜴人間達は、体長が2メートル程で、フルプレートの鎧に身を包み長槍と盾を装備している為、重量のせいか移動速度はそれほど速くはないようであった。


 仮に単体であったとしても、恐らく戦って勝てる相手では無いだろう。しかも相手は15体もいるのだ。戦うと言う選択肢など有ろうはずもない。


 そう思った翔哉は走りやすくする為に、武器として持っていた槍と盾を投げ捨て、蜥蜴人間からの逃走劇を繰り広げていたのだ。


 必死で逃げる事に集中していた翔哉は、何とか蜥蜴人間達を巻く事に成功した事に気づく。後ろを振り返っても奴らが追ってきている気配は無い。


 翔哉はとりあえず一息つこうと、樹齢が何千年も有りそうな大木の幹に寄りかかって、ここまでの自身に起きた不運について回想し始めた。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 その日は彼が通っていた高校の文化祭であった。


 全く友達がいないと言うわけでも無いのだが、どちらかと言うと空気である事を好む彼としては、陽キャ達がわいわい騒ぐ為に有るような、こう言ったイベント事は苦手だった。


 彼のクラスで催す事になった出し物は演劇で、最初なかなか内容が決まらず、クラスの実行委員が半ば強引に決めた、昔話をごっちゃにしたような創作物語に、最初は全員ブー垂れていたが、いざ準備が始まってしまえば皆それなりに楽しそうであった。


 文化祭の後片付けも概ね終わり後夜祭に移行する際、翔哉はしらばっくれて家に帰宅しようと考えていたのだが、同じクラスの女子である山城雪菜に呼び止められてしまう。


「あれ? 翔哉くん、まさか家に帰ろうとしてない?」


「えっ! あ、うん。なんか僕ってお祭り騒ぎとか苦手なんだよね。だから後夜祭は遠慮しとこうかな?って」


「ダメだよ、そんなの! せっかく仲良くなれてきたんだから、翔哉くんも、もっと皆の輪に積極的に溶け込むように努力した方が良いと思うよ!」


 正直、余計なお世話だった。しかも、そのやり取りを見ていた他の男子達の、突き刺さるような視線が痛い。


 それもそのはず、山城雪菜はこのクラスで一番の美人なのである。ともすれば学校一かも知れない。そんな彼女は何故か今回の文化祭を契機に、翔哉に対して積極的に話しかけてくるようになっていた。


 翔哉はお世辞にも格好いいとは言い難い容姿である。どちらかと言えば中性的な顔立ちで、もっときちんと身なりを整えていれば、ひょっとしたらモテない事もないのかも知れない。


 しかし、彼はファッションなどには全く興味が無く、時には寝癖のまま登校する事さえ有ったくらいなのだ。


 対する雪菜はと言うと、天然の栗毛にサラサラなストレートヘアーで、透き通るような白い肌をしており、まるでハーフのような顔立ちであった。


 しかも、スタイルまで抜群とあれば、同じクラスの男子に限らず学校中の男子達が放っておくはずもない。


 そんな彼女が、やたらとちょっかいを出すようになったのである。それはクラスの男子達から、敵意を向けられるようになってしまうのも当然の話だろう。


 彼女と付き合っていると噂される男子が、苛立つ表情を翔哉に向けながら話に割って入る。


「参加したくないって言ってる奴の事なんか、放っておけば良いだろ!? 余計なお世話だよな?涼森!」


 気のせいか他の男子達もニヤケながら、この様子を窺っているようである。


 話に割って入ってきた彼は、天上寺(テンジョウジ)隼人(ハヤト)と言って、ファッション誌のモデルも勤める程のイケメンだ。


 その上スポーツも万能と来ていれば、当然、学校中の女子達から注目を集めるのは必然である。月に二度三度は学校の内外問わず告白されると言う噂も、けっして大袈裟な話ではないであろう。


 隼人の強引な言い様に、雪菜は少し怒ったような顔つきで、わざとらしく彼を名字で呼び意見する。


「天上寺くん? 翔哉くんだって同じクラスの仲間なんだよ? 彼の本意もちゃんと聞かないで、そんな突き放すような言い方は、ちょっとどうかと思うよ!」


 本意も何もない。翔哉は早く家に帰って、先週買ったばかりの新作ゲームがしたいのだ。


 天上寺くん! もっと頑張れ!


 そんな事を思っていた翔哉だったが、その後すぐに、さっさと帰宅してしまわなかった事を後悔する事になる。


 雪菜に窘められた隼人は、急に態度を変えて彼女の意見を肯定し出す。


「そうだよね。確かに雪菜の言う通りかも知れない。ちゃんと気持ちも聞かないで勝手に決めつけたりして、すまなかったよ涼森!」


 彼がそう言って翔哉に謝罪した時、一瞬、教室の中が静寂に包まれる。


「何処かのクラスで合唱でもしてる? なんか変な歌、聞こえない?」


 一人の女子生徒が突然、そんな事を言い出す。


 確かに聞こえる。まるで聖歌でも合唱しているかのような歌声が。


 いや、違う。聞こえると言うよりも頭の中に直接、響いてくる感じだ。


「何だよこれ! 幻聴ってやつか? うわっ! 俺の頭の中、何か変だ!」


 クラスの不良男子である剛田太志が、狂ったようにそう叫んだ瞬間、教室の中央が突然紫色に輝きだして、ファンタジー物とかでよく有りがちな魔法陣のような物が急速に広がっていく。


 そして、翔哉の意識は次第に薄れていき、次に気が付いた時には一人、真っ白な空間にいたのだ。


「ヤッホー☆ 涼森翔哉くん! 何とか捕まえる事ができて良かったわ! それにしても本当にあなたって可愛いわね~♡ このまま拐っちゃいたいけど、残念ながら今回はそう言うわけにも行かないのよね~」


 彼の目の前には、何とも表現のし難い神々しさを放つ銀髪の美女が佇んでおり、彼女はそんな訳のわからない事を言い始めた。


「ここは何処なんですか? あなたは一体、何者?」


「私? まぁ、そのうちわかるんじゃないかなー? 説明してあげたいんだけど、あまり時間が無いのよ! ごめんなさいね」


 彼女がそう言って両手を広げると、翔哉の体は突然、強烈な青い光に包まれる。


「よし! これでOKね☆ じゃ、また会いましょ♡ 涼森翔哉くん!」


 何がOKなのかよくわからないが、彼女のその言葉を最後に翔哉の視界は再び暗転するのだった。


本作品を見つけて読んでいただき、誠にありがとうございますm(__)m

感想などいただけましたら、作者としてはとてもやる気になりますので、書いていただけると非常に嬉しいです(^ω^)

先にネタバラシしてしまいますが、プロローグにて登場したクラスメイトの女子は、全くヒロインなどではありません。むしろ憎まれキャラです。

正ヒロイン登場は6話以降からとなりますが、根気よく読んでいただけると幸いです。

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