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除霊師シオ  作者: らすく
第1章 除霊師シオ登場
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紙袋の男(3)

 今朝の私は黙って朝食を取っている。そして母も黙って何も言わない。だからお互いに気まずい。ぎこちない空気がしばし流れる。私はたまらなくなった。

「お、お母さん。」

言葉は続かない。それでも目で訴えた。果たして気持ちは通じたのか。

沙月さつき)。」

母は私の名を呟いた。そして腰を掛けている私に歩み寄った。母は少しだけ姿勢を低くして私に目線を合わせた。

「沙月、大丈夫だからね。」

母は私を抱き締めた。それでも私は驚かなかった。そして母の言葉には確信めいたものを感じた。それで安心して緊張の糸が切れたのかも知れない。

「うっ。」

自然と私の眼から涙が溢れてきた。きっと母は私が昨夜に見た夢、いや過去の内容を悟っているのだ。私を案じる態度を示している母を、これ以上に苦しめたくはない。だから私は母に過去について追及はしない事にしたのだった。そのまま登校することにした。しかし、、玄関をでて門をでようとしたそのとき、ある気配に気づいた。私は恐る恐るその方に振り向いた。

(・・・・・!!)

瞬間、私は身も心も凍り付いた。少しだけ私から離れた距離の、家の花壇の側に立っていた。彼は血塗れの紙袋を被っていた。彼はただ立ち尽くしているだけだった。何もしようとしない。何も言わない。それは不思議な感覚だった。

「あれ?」

私は童女になっていた。今と比べて全く無力な存在になってしまったのだ。これは本当に危険な状況だ。目の前に危険な存在が現れたというのに。しかしどうしてなのだろう。いつの間にか、何故か彼に対して恐怖を感じなくなっていた。それと共に何か別の感情が自分の中で生まれていた。少なくともそれは悪いモノではなかった。

「・・・・?」

そうこう考えているうちに彼の姿は消えていた。気が付くと私は一人の女子高校生に戻っていた。


 「どうだった?」

明里は朝一番に声をかけてきた。相変わらず元気な娘だ。

「うん。」

そして私は明里に、昨日みた夢の内容を全て話した。やはり彼女は最初は驚いていた。当然だろう。しかし直ぐに明里あかりは私を心配する表情に変わった。こうゆうところは表情豊かな明里の分かりやすいところだ。そしてやっぱり彼女は自分の友人と言いきれる、と思った。

「行こうね、今日も。」

明里あかりは優しい口調だった。

私は黙って頷いた。


 私の話を聞いた彼女は、少しも動じた素振りも見せなかった。

「大変だったわね。よく正直に話してくれたわね。」

セーラー服の少女が、私を気遣う言葉を出したのは些か意外だった。冷徹な印象を持っていたが、それは自分の偏見だったのかも知れない。そして彼女は続けた。

「でも貴女はまだ、過去の事実の全てを思い出してないわ。そして今夜がその夢は最後になると思うの。」

その台詞に私は驚いた。まだこの悪夢、過去には先があったとは。本当に目の前が真っ暗になるとはこの事だろう。

「でもここまで来たら、最後まで夢を見る事ね。」

セーラー服の少女は、はっきりと言い切った。

「最後まで・・・。」

私は聞き直す様に呟いた。

「そうよ。最後まで。」

それは私に腹をくくれ、という事なのだろう。それでも私が恐れを抱かされなかったのは、セーラー服の少女の全てを見透かしたような眼の為だった。やはり自分は最後まで知るべき運命にあるのだろう。


 その夜、寝床につき私は考えた。一体これ以上、何が起こるというのだろうか。私が何かされるかというのか。しかし自分は現に、ここに存在しているし。どうしても過去の事は思い出せない。堂々巡りをしているうちに自分は眠りに就いた。


 「あははっ。」

その時の私は笑っていた。友達とジャレついていた。砂遊びをしていた。ブランコに乗っていた。そしてジャングルジム・・・。無邪気とはこのことなのだろう。時間はあっという間に過ぎてゆく。

「あっ!」

私は気が付いた。

沙月さつき。」

あの人が迎えに来てくれた。私はこの人が大好きだ。キャッキャッと走り寄った。私の視線は一気に上昇した。とても高い位置から友達を見下ろす。

「じゃあね!!」

「じゃあ!!」

私は友達に別れを告げる。

「さあ行こう。」

肩車だ。あの人はガッシリとした身体だ。安心していられる。だからこれは見慣れた景色なのだ。

「ちょっと寄ってく!?」

「うん!!」

あの人からの期待していた提案だ。私は嬉しかった。

「ここだ。」

「やっぱり!!」

良く分かっていらっしゃる。この人は。近所の美味しいアイスクリーム屋さんだ。

「チョコレート。」

「バニラ!!」

それぞれ好きなアイスを注文した。・・・・本当にアイスの味が分かるのはバニラなのだ・・・・。

「うんうん。」

私はアイスを頬張る。

「口の周りについているぞ。」

あの人から指摘を受ける。私は舌を目いっぱいだして口の周りを掃除した。

「わははっ!」

そんな私の様子を見て、あの人は笑っているようだ。

・・・・もっとも紙袋を頭から被っているのだから、その表情は分からないのだが・・・・。

                           

                                          <続く>

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