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除霊師シオ  作者: らすく
第1章 除霊師シオ登場
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紙袋の男(2)

 よほど私の語気は思いもよらない強いものだったのだろう。母は驚いた顔をして私を見つめていた。そんな彼女の表情はとても珍しいと感じる。そして母は目を瞑り深い溜め息をしていた。それはある覚悟を決めており、その為に自身の心を落ち着かせているように見えた。

「やっぱりいつかは思い出すんだねえ。」

母は諦めている様に見えた。


 母から聞いた話しは、私にとっては非常に衝撃的なものだった。その内容はと言うと・・・。私は幼い日に変質者に襲われたのだった。幸い近所の人に助けられて、身体的な被害はなかったらしい。でも私はショックを受けて普通の精神状態ではなくなったという。そこで私を案じた母は考えた。じきに策は見つかった。その方法は、とある知り合いを通じて催眠術師に、その事件の記憶を封印してもらうというものだった。その催眠術師は一見怪しげな黒人だったが、業界では高名でその腕は確からしい。そして彼の催眠術を受けた私はその事件を忘れることに成功したのだそうだ。しかしやはり私の潜在的な記憶は消せなかったのだろう。それが今回に奇妙な夢なのだ。

「でも沙月さつき、もう心配はないのよ。」

精神的ダメージを受けているのか、母はやつれているような印象を受けた。それでも目には力がこもっている。恐らく私を何らかの形で納得させようとしているのだろう。果たしてそれは正しかった・・・。

「もう貴女を襲った相手が現れる事は絶対にないから!」

その母の迫力のある物言いに、私は圧倒されたのだった。

「う、うん・・・。」

もう私は、これ以上の追及をすることはしなかった。もっとも自分に真実を知るのが怖い、という気持ちがあったのかも知れない。それでも登校中の道で私は感じていた。母が何かを隠していることを。


 「うーん。話を聞いた感じだけど、このままで放っておくのはまずいね。」

その娘は表情が豊かだった。そう、やはり危機感を拭えない私は結局、友人に相談を持ちかけたのだ。まあ、彼女を相談相手に選んだのは正しいのか今一つ自身が無かったのだが・・・。それでも友人は元気が良かった。

「行動は早く起こすべきだよ!」

「行動?」

「そう!私の知ってる人に相談しよう!放課だよ!」

「う、うん。」

明里あかりの強引な話の進め方にたじろぎながらも、しっかりと相談にのってくれたことに私は安心感を覚えていた。明里あかりとは私の友人の名である。そして実際に事はその通りに進んだ。


 「話しは分かったわ。」

友人・明里あかりが紹介してくれた人はキッパリと言った。目の前にいる彼女は自分にとって期待以上の人だった。見たところ私と同年代くらいの女の子だが、とにかく落ち着き払っていて話をしていても安心できるのだ。でも何処の学校の生徒なのだろうか。あまりこの辺では見かけないセーラー服を彼女は着用している。

「それで貴女に確認したいことがあるの。」

「は、はい・・・。」

自然と彼女に対しては、私は敬語になった。それだけセーラー服の少女に威厳がある、ということなのであろうか。

「貴女をこの夢から解放させるのは難しくないわ。」

そう言い切る辺りに自信が伺える。しかしその半面、これは意味深な言葉だ。セーラー服の少女は続けた。

「恐らく貴女は真実が知りたいのね。」

まさに彼女は私の期待以上の人だ。迷わずに私はコクりと頷いた。そう、私は知りたいのだ。自分の封印された過去の全てを・・・。

「じゃあ貴女を悪夢から解放するのはまだ先にするわね。」

今日のところは私たちはそのまま引き上げることになった。でも不思議と自分に不安はなかった。それでも、たぶん今夜も私は・・・。


 またもその田舎道だ。そこを歩く童女の私は馴れた足取りだ。もう覚悟はしている。どうせまた同じ展開になるのだろう。後ろに気配を感じた。迷わず私は後を振り返った。来た・・・。どこのスーパーの購入品のものだろうか。また紙袋を被った男が迫ってくる。とりあえず私は逃げた。例によって道をは外して逃げるという選択肢は童女の私には思い浮かばない。みるみるうちに紙袋の男に私は追い付かれる。そして私は転倒した。もう逃げようがない。間髪入れずに紙袋の男は私に覆い被さった。男の手が私の身体に触れる。まさかいきなりこんな事になるとは・・・。恐怖だ。それは恐怖以外の何物でもない。そして・・・・。決定的な行動を私は起こした。私は無我夢中で道に落ちていた石を手に取り、紙袋の男の頭に叩きつけたのだった。たまらず紙袋の男は転倒する。その男は仰向けなり痛さで藻掻いていた。童女の私は容赦しない。その手に取った石を何度も何度も、紙袋の男の頭に叩きつけた続けた。無我夢中だった。・・・・男の手足の動きが・・・・止まった。それでも私は叩き続けた。しかし・・・・。後ろから私の腕を掴まれる感触があった。その感触は馴染みのあるものだった。童女の私は後ろをねじ向いた。私の顔に水滴がポタポタと落ちてきた。見上げると溢れんばかりの涙を流し落とす母がいた・・・・・。私は過去を知ってしまったのだ。

                         

                                    <続く>

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