冴えない男子と不良女子
その男子生徒は校舎の屋上にいる。もう何分もここにいるのだろうか。校庭では野球部、ソフトボール部、サッカー部等が放つ活気で満ち溢れている。それに比べて彼はどうなんだろう。運動は苦手だし、かといって他にとりたてて特技がある訳でもない。でも分かっている。そう言って今までなにもしてこなかったんだ。
「僕はそうゆう男なんだ。」
再び見下ろした。校舎の側で女生徒達とがキャッキャッとはしゃぐ声が聞こえる。もはや彼女たちは彼とは違う世界の住人だ。男子生徒は眼を瞑った。風圧を感じる。それは彼を激しく包み込んでいる。そして女生徒たちの金切り声が聞こえた。
周りの風景がボヤッとする。でも視界は次第にスッキリとしてきた。そして嗅覚も。とても煙たい。これはまさか。
「わっ!」
驚いた男子生徒は跳ね起きた。どうして驚いたのだろうか。
「わわ・・・。」
彼は狼狽する。男子生徒の側には女生徒が立っていた。しかもどこにでもいるような、ただの女生徒ではない。彼女は学年のみならず全校的な有名人。バリバリの不良少女、黒井里だ。言うまでもなく、この男子生徒とは全くの接点はない。
「く、黒井さん・・・・。」
彼は何と喋ったら良いのか分からない。
「アンタ大丈夫かい?坂城くん。」
「えっ!?」
とても驚いた男子生徒。無理もない。全校的な有名人である彼女が、全く冴えない自分の名前を知っているのだから。でも不良少女は何故この男子生徒が驚いたのか分かっていない様である。
「ホントに大丈夫かい?」
横たわっている男子生徒の傍に彼女はしゃがみ込んだ。
「わわっ!!」
ますます彼が慌てるのは無理もない。自分の顔の前に少女の膝小僧が迫ってきているのだから。でもそれは危機感ではなく、むしろ思いがけない事が舞い込んできたという気分なのである。不良とはいえ、やはり女の子である。異性に免疫のない男子生徒の表情はまさに恍惚なのであった。しかし・・・・。
「ちょっと待ってな。」
カチッという音がした。やはり不良少女である。彼女は水色の銘柄の煙草を取り出して火をつけた。それを見て坂城くんの顔は強張った。
「え・・・。」
またしても男子生徒の予想を超える事が起こったのだ。なんと不良少女はこともあろうに坂城くんに対して、顔と顔を至近距離に詰めてきたのであった。本当に男子生徒にとっては嬉しい誤算である。しかしこの世の中はそう甘くはない・・・。
「フウーーーー!」
いきなり不良少女は自分の息を強烈に男子生徒に吹きかけたのだった。無論それは煙草の煙である。
「うわあああ!」
もう彼の夢見心地は終局である。みるみるうちに男子生徒の姿は消えていった・・・・。そう・・・・。彼はもうこの世の人間では無かったのだ。今から半年前にこの校舎の屋上から飛び降り自殺した男子生徒だったのだ・・・・。
「という訳なのさー。」
下校途中に訪れたのであろう。黒井里は制服姿であった。はしたなく畳の上で胡坐をかいている。用意されていた座布団は肌に合わないのだろう。そんな彼女を見た老人は溜息をついていた。
「逐一報告するの面倒臭いな。」
そのセリフと共に不良少女はゴロンと仰向けに寝っ転がり、老人の方に脚を向けて組んでいた。本当に行儀の悪い娘である。
「下着見えておるぞ・・・。」
老人の指摘など全く気にしない。彼女は天井を眺めていた。しかし別の存在が現れた。黒いスカート。セーラー服の少女だ。
「なんだシオ。いたのか。」
里はムクリと起き上がる。
「それじゃ義務は果たしたから、もう帰るわ。」
サバサバとした態度で黒井里は帰っていった。
「全くあの娘は・・・。」
老人は呟いた。どうやら黒井里と、老人、シオとは繋がりがあるらしい。そして黒井里は自分の除霊の件を、二人に対して報告する約束であるらしいのであった。
「はー。」
黒井里は公園で一服していた。そして心の中で呟くのである。
(アイツいつか除霊してやろうか・・・・・。)
~冴えない男子と不良女子~ <完>