私はトップアイドル(1)
~~~~~ サカの視点 ~~~~~
もう出番まで余り時間がない。周りはセカセカとしている。私も以前はその立場だった。今はだが今は彼女達に世話をされる側なのだ。
「サカさんOKだよ。」
付き人の娘はニッコリと笑う。彼女はいつも愛想のよい女の子だ。彼女は私の無二の親友である。かつては同じアイドルグループのメンバー同士だった。そしてその後、私はソロデビューして大きく飛躍した。一方、彼女はアイドルの道を諦め裏方に回り、私の世話をしてくれているのだ。それでも売れるまでの苦難を共に戦ってきた同志だ。上下関係など私たちの間にはなかった。
====== サ、カ、サ、カ、サ、カ! ======
観客席からの声援が聞こえる。自分の心臓の鼓動の高鳴りを感じる。
自分で言うのもおこがましいけど、今や私はトップアイドルの1人なのだ。今日もステージを満員にするのが自分の使命だと思っている。
「よし!」
気合を入れた。そして声援を浴び、私はステージへ躍り出た。しかし・・・。
「え?」
拍子抜けとは、正にこのことではなかろうか。これは一体どうしたのだろうか、観客席には誰もいない。あれ程に激しい歓声は、もう存在しない。彼らは何処に行ったのだろうか。
「え?ええ!?」
その状態に対して訳が分からない私は、ただ周りをキョロキョロと見回すばかりだ。でも戸惑うのは少しの間だった。すぐに次の展開は訪れたのである。
===== ガパッ =====
「きゃっ!!」
なんと床がまるで扉のように開き、私は落下したのだった。
「う、ん・・・・・・。」
どうやら私は気絶していたようだ。気がつくと、私は自分自身の体を撫でていた。生きている。痛みも感じない。それほど高いところから落ちては無かったようだ。
(ここは何処なの・・・・?)
ここは何もない白い壁の部屋だった。本当に物は何も置かれていない。真に不思議な感じなのだ。でもそれ以上に不思議な事が起こった。
====== ズウウウウウン ======
「へ?」
何なのだろうか。突然に二つの影が、私の目の前に現れたのだった。この扉も窓も部屋に・・・。これはテレポーテーションというやつなのだろうか。その影は人であった。
「は、はわわ・・・。」
なんとそれは私の大嫌いな人種なのであった。男性のお医者さんと、女性の看護師さんの二人だったのだ。いや私は別に、彼らの人格が嫌いな訳ではない。自分は子供の頃から、病院が大の苦手だったのだ。だから人が嫌いなのではない。でも・・・・、こんな言い訳をしても嫌なものは嫌なのだ。
「へ、ひいいい・・・。」
なんと彼らは無言で私の方に歩いて接近してくる。マスクを着用して表情が見えないところが、より一層に自分の恐怖心を掻き立てられる。勿論、私は後ずさりをする。
(こ、怖い・・・・、純粋に怖い・・・・。)
私は・・・・、ヤケクソとなった・・・。
===== バリバリバリン!! =====
私は部屋の壁を破った。当然そんな事ができると思っていなかったが、できてしまったのである。
「はあっ!!」
迷わずに私は部屋を勢いよく飛び出した。我ながら後先を考えない性格だと思う。そんな自分の性が生み出した結果は・・・。
「う、うわあああ!!」
またしても私は落下した。
「う、うん・・・・。」
目が覚めた。でもそこは不思議な場所では無かった。
「え・・・・?」
私は病院のベッドで寝ていたのだった。そしてその事は不自然に感じられなかったのである。何故なら自分は分かっているのだ。
===== もう私は助からない病なのだ =====
もう長い事、抗がん剤治療を受けている。痛い、苦しい・・・・髪の毛も抜ける・・・・・。アイドル活動を休止したのは、いつからなのだろうか。もうファンは誰も、私が戻ってくるとは思っていないのではなかろうか。もうかつてのトップアイドルが戻ってこなくても、芸能界は盛り上がっている事だろう。間違いなく代わりに誰かが、自分のポジションを獲得しているはずだ。最早、元通りにはならない・・・・。自分の努力ではどうにもならない・・・。でもそれは誰かのせいでもない。だから怒りをぶつける相手はいない。そんなことは初めから分かっている。だから自分は人生に失望している。私はベッドから降り、部屋の窓際に脚を進めた。
「自分自身で終わらせる。」
もう以上は悩みたくない、苦しい治療も受けたくない。だから自ら命を絶つのだ。私は窓から身を乗り出した。しかし・・・・。
===== ガシッ =====
「えっ!?」
誰かが私の腕を掴んだ。いや自分の良く知った肌触りだ。忘れるハズもない。
「ウミ・・・・・。」
振り向くと親友の顔があった。彼女の瞳は涙で溢れていた。
「サカ、もうやめて・・・・。」
(心から私を心配してくれているんだね、ウミ・・・・。)
<続く>




