彼女もまた
「由衣、掃除できたから帰るね。」
「ご苦労様。」
私はクラスの委員長。自分で言うのもなんですが、まるで絵に描いたような真面目な学生だとよく周りから言われるのです。他のクラスメートも私に対しては、よそよそしくも一定の敬意を持っている様子なのでした。そんな感じなのですが、人それぞれ十人十色。自分のイメージに誇りをもって生きていくつもりなのでした。
「うん。」
私は違和感を覚えたのでした。そして自分の眼鏡の縁をつまみ、眺めたのでした。そこには一人の男の子がいました。恐らく彼は、私と同じくらいの年頃と見受けられます。でも、この学校の制服ではありません。それにこの子は、いつの間に、この教室にいたのでしょうか。
「どうされましたか。」
明らかに面識はないので、当たり障りのない声掛けをしました。
「・・・・・。」
彼は私を見つめていますが、何も言い出す気配がありません。少しの間がありました。そして少し後退りをして姿を消してしまったのです。一体どうしたのでしょうか。あの男の子は・・・。
学校での用事を終えた私は、帰路に着こうとしていました。しかし、またしても気配を感じたのです。
「・・・・・。」
案の定なのでした。やはり先ほどの彼がいたのでした。相変わらず私から距離をとり、ジッと視線を送ってくるのです。これは最早、つきまとい、ストーカーに近い行為だといえます。それでも私は不思議と嫌悪や恐怖を感じませんでした。その理由は、彼からは悪意を全く察知できないからのです。むしろ何かに困惑しているかにさえ思えるのでした。
「あの、貴方は・・・?」
私は彼に対して接触を試みました。しかし・・・。
「ああ・・・。」
またしても彼は言葉を発することもなく、その場から姿を消してしまったのでした。私は残念でなりません。
夕食もお風呂も終え、私は落ち着いていました。サラサラと参考書を読み、お気に入りの小説を楽しみました。普段ならもう、これで1日は終わるのでしょう。でも予感をしていました。まだこの日には続きがあるということを・・・。自分の内から何やら胸騒ぎがしました。それはそう遠くはない距離から感じ取られるのです。そして私は窓をあけました。2階なので通りを見下ろす形になりました。
「・・・・・・。」
やはり彼はいたのです。家の前の通りから、私を見上げているのです。そして三度、私の視界から姿を消したのでした。しかし自分には分かっていたのです。何をすべきなのかを・・・・。
私は窓とカーテンを閉めました。そして後ろを振り向きました。
「やはりいましたね。」
「・・・・。」
そこには彼が立っていたのです。四度目の遭遇にして、手に届く距離にいるのです。私は驚いていません。これは想定の範囲内なのです。何故なら彼の表情を見ればわかるのです。そう、この子の顔はまるで悩める子羊のものなのでした。
「どうしたらよいのか分からないのですね。だから私の元に現れたのですね。」
彼は黙ってコクッと頷くのでした。それに対して私も頷き返したのです。
「貴方をこれ以上現世を彷徨わせ、苦しめるべきではないと思います。よろしいですか?」
またも彼は黙って頷きました。そこには納得の気持ちが込められている様に見えました。
「よし。」
私は彼の至近距離にいました。そして彼の頬に両手を接触させたのでした。しかしその瞬間・・・。
===== ガアアア!!!! =====
男の子は叫び声をあげて豹変したのでした。その眼はまるで肉食動物の様に、危険な輝きをはなっていました。彼は私に襲い掛かろうとしました。しかし私は慌てません。
==== ガシッ =====
彼を思いっきり抱きしめました。
「う、うあああ・・・・。」
次第に男の子は穏やかな表情になっていきました。
「大丈夫ですよ。」
彼は目を瞑りました。そして・・・・、足元から次第にその存在は消えていったのです・・・。
全てが終わりました。
~~~~~~ 話は終わった ~~~~~~
「以上でご報告終了したします。」
彼女は深々とお辞儀をしていた。それは全ての話が終わって事の証である。とても彼女は、まめな性格であり一度たりとも活動の報告を怠ったことは無いのである。あの不真面目な少女とはえらい違いなのであった。
「有難う。」
シオの合図地は短い。
「うむ、いつもご苦労じゃ。」
老人も満足げに頷いた。
「ではこれで失礼いたします。」
用事を終えた彼女は、速やかに席を立った。
「ではまたよろしくな。」
老人は孫に対する様な口調で彼女を見送る。
「・・・。」
例によってシオは寡黙であった。
彼女は木枯らしの吹く道をゆっくりと歩く。
彼女の名は白川由衣。彼女もまた除霊師である。
~「彼女もまた」~ <完>




