表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
除霊師シオ  作者: らすく
第1章 除霊師シオ登場
14/19

老紳士の昔話(4)

 老紳士の昔話は衝撃的な結末を迎えた。これは救いようがない。もはや皆が彼にかける言葉はなかった。しかし老紳士の態度はそうではなかった。まさかこれ以上の展開があるというのだろうか、果たしてそれはあった。


 ◯老紳士の話

 当然その日の奉公先の皆は、何をすれば良いのか分からずに右往左往の状態でじゃった。じゃが警察がきてから、さらに状況は一変した。何と彼女は他殺だった事が判明した。絞殺され井戸に入れられていたのじゃった。警察は家の人間に事情聴取をしていた。そしてその事情聴衆が進んでいるうちに、雰囲気が変わっていた、それは自分にとっては悪いものじゃった。そのワシの感覚は正しかった。やがてワシにも事情聴取の番が回ってきた。しかしそれはもはや容疑者に対する取り調べじゃったのじゃ。ワシは警察署に連行された。そう、普段から彼女に接しているワシには疑いが掛かった。自分は前日に彼女を動揺させており、只ならぬ雰囲気は周りの者にも伝わっていたであろう。疑われるのは自然じゃったのかも知れない・・・。


 一同は騒然となっていた。この老紳士の過去は大変過酷であったからである。


 〇老紳士の話

 その取り調べは過酷を極めた。初めからワシが犯人である体で話は進められたのじゃ。ワシはなにもしていない。彼女を殺めるなど天地神明に誓ってない。だが自分が拘留されているうちに犯人は現れなかった。もはや警察としてはワシを犯人にする以外は、事件を終結させることが出来なかったのじゃろう。長い取調べによる拘留でワシは肉体的には勿論、精神的にも追い詰められていた。さらに自分が好意を示し動揺させた彼女に対する負い目もあった。正常な思考ができなくなってきたワシは、ある考えに達した。本当は自分は彼女を殺したのではないのか。その記憶を自分は封印しているのかも知れない。そしてワシは自白した。当時は自白は証拠の王様。ワシは収監された。


 考えうる最悪の事態であった。それでも老紳士は話を続けた。


 〇老紳士の話

 刑務所生活に慣れてしまい、自分としては苦痛ではなくなってきた。もうワシは刑期を務めあげるつもりじゃった。ところが収監されて一年経過したとき、事態は急変したのじゃ。いまでいう人権派の弁護士がの、この殺人事件に異論を呈したのじゃ。そして弁護士はワシに接見を申し出てきた。それを断る理由は自分にはなかった。とても丁寧な弁護士の話を聞いてワシは気がついた。本当に自分は彼女を殺していなかった事を。しかも弁護士は真犯人の目星がついているのだという。もはや考える余地などなかった。その弁護士にワシは運命を預けた。すると驚く程に運命は動いた。そして気がつくとワシは無罪放免となり出所とあいなったのじゃ。後になってわかったのじゃが、警察にも事件に対する疑問を持つ人間がいたらしい。そして弁護士は極秘に警察内に協力者を作ることに成功した。そしてワシが犯人であるとは言いきれない、と裁判にて主張した。裁判所は疑わしきは罰せず、の原則に乗っ取りワシに無罪の判決を出したのじゃった。


 ホッと胸を撫でおろすとは、この事であろう。だが一つの疑問を清聴する一同は思っていた。


 〇老紳士の話

 勿論その弁護士には感謝してもしきれない。ワシは礼を述べるため弁護士の元を訪ねた。弁護士は普段は穏やかな人柄らしかった。弁護士曰くワシの無実を証明するのは容易だったらしい。しかし弁護士は、それだけでは満足していなかった。何故なら真犯人を特定するに至らなかったからだ。いや正確に言うと特定はしているが、それ以上踏み込んで犯人であると証明する事ができなかったのだ。警察内に協力者がいたという話であったが、大勢はワシを犯人に仕立て上げようとしていた。となると、ある理由が推測できる。実は警察は真犯人を守るために、事実を隠蔽したのではないのか。自由の身となったワシは、この理不尽に対して戦おうという意欲が湧いていくのじゃった。そしてその意思を弁護士に伝えたのじゃが、彼の反応は意外なものであった。大きな力が働いており、これ以上脚を踏み入れるのは危険である、と言う。真剣な眼差しの弁護士をみて、ワシもこれ以上は詮索しないことにした。世の中には知らない方が良いことがあるのだろう。


 まるで老紳士は大仕事をやり遂げたかの表情で、目を瞑り深い溜息をついていた。勿論、一同は真相について興味はあった。しかしさきほどの老紳士の言葉通り、これ以上追及するつもりは無かった。

「なんでワシはアンタらに、この話をしたんじゃろうのう。」

老紳士は優しい笑みを浮かべ、マスターとウェイトレスを見比べるように顔を眺めた。何やら意味深である。

「すまんかった。じゃあ行こうか。」

老紳士は運転手を従え、速やかに会計を済ませ店を出たのであった。老紳士は薄々、気が付いていたのだ。この喫茶店のマスターとウェイトレスの顔をみて、先ほどの話を始めてしまった理由を・・・・。

「建朗よ。」

「はい、旦那様。」

「お前のお爺さんにはとても世話になったからな。」

「・・・・・・。」

何とこの運転手にも、先ほどの話を聞く権利はあったのだ。そして運転手は、この老紳士との馴れ初めを思い出した。建朗は祖父と同じく弁護士を志していた。しかし彼は挫折した。そして自暴自棄となっていた建朗を拾い、お抱え運転手として雇ったのが今の老紳士である。運転手は思った。まさか自分の祖父と老紳士に、この様な因縁があったのだとは・・・。

「ワシは疲れてしもうた。建朗、今日はもう帰ろう。」

「かしこまりました。」


 ここは<喫茶 弓>、マスターは先ほどの話を思い返していた。彼は気づいていた。自分の家系が老紳士の過去と繋がりがあったことを・・・・。実はマスターは老紳士の若かりし頃の奉公先、地元の名士の家系なのである。最もその地元の名士は没落し、今では誰が住んでいるかもわからない古びた屋敷になったてるのだが。マスターは思った。老紳士はかつての奉公先の少女の面影を見たのかも知れない。自分の娘であるウェイトレスに対して・・・・。その事は娘には伏しておこうと、マスターは思った。


 古びた大きな屋敷の前に母子が立っていた。母親は幼い娘の目線に腰を落とし、言葉をかけた。

「ここのお爺さんと、お姉ちゃんがね、助けてくれるからね。」


                               ~「老紳士の昔話」~ <完>

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ