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除霊師シオ  作者: らすく
第1章 除霊師シオ登場
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老紳士の昔話(3)

 ◯老紳士の話

 ここまで言うたら、もう最後まで行かなダメじゃろうな。要は奉公先での人間関係に変化が起こったのじゃ。まああくまでも自分がそう感じていただけのかも知れんがの。その対象は奉公先の主人の子供。そう、例の兄妹じゃ。ワシを含めた3人は、子供の頃の様に無邪気な繋がりではなくなった。お互いに一人の人間同士。もっと踏み込むと一人の男、一人の女。完全に意識をするようになった。そのことにより、ぎこちない関係になってきた。それは勿論、決して嫌い合う訳ではないのじゃが。元来優秀だった兄は、より一層に学業に打ち込むようになった。まさに末は博士か大臣かという感じじゃった。自分の勝手じゃが、ワシは彼に対して自然と引け目を感じるようになってきた。そのワシの気持ちを、兄は感じていたのかも知れない。だから兄妹で揃ってワシに話しかけてくることも、次第に少なくなってきた。一方で妹も兄に負けない程に利発な少女じゃったが、当時は女性に対して学問を求めない風潮もあったじゃろうか、親には厳しく言われずにいた。だから彼女は1人でワシに絡んできての。


 ここでまた、老紳士は一息をついた。次第に3人は話の核に近付いている事は感じていた。そして結末そのものが迫っている事も。それでも周りは老紳士を急かさない。奉公に行ったのは戦後間もない頃であろうから、恐らく彼は戦時中の生まれか。この事から老紳士は、かなりの高齢である。皆が彼をいたわる気持ちは自然なものである。また老紳士は口を動かし始めた。


 ◯老紳士の話

はっきりと言うと、ワシは奉公先の娘に惚れておったのじゃ。娘は寡黙じゃったが、自分にとってはまさに癒しの存在じゃった。ワシが勝手に思っておっただけかも知れんがの。勿論、境遇の違う相手。交際するなど自然の流れに任せておけば叶うはずもない。じゃからワシは後先を考えずに勇気を出して意思表示をする事にしたのじゃ。


 もう皆は老紳士が何を言わんとしているか察していた。呼吸を整える彼を労りの目で見守っていた。


 ◯老紳士の話

 勤めをしているワシのもとに、いつも通りに奉公先の娘はきた。相変わらず寡黙な娘は、とくに何を話す訳でもなくワシの側にいた。慣れている。それだけでも癒しじゃ。少しの間を置いてワシは話を切り出した。自分は貴女に惚れている、付き合って欲しい、と。はっきりと意思を伝えたんじゃ。


 シーンとした無音を表するものが、まるでここにあるようである。もともと清聴していた3人であるが、ますます緊張を高めていた。


 ◯老紳士の話

 ワシの告白を聞いた彼女は明らかに動揺しており、ややうつむき加減に小刻みに身体を震えさせていた。そして何も言わずに、その場を去っていったのじゃ。無理もない。いきなり自分の家の奉公人から告白されたのじゃ。どう反応したら良いのか分からんじゃろう。その時に自分は何という事をしたのか、と後悔の念にかられたのじゃ。もしも彼女が家族にワシの告白の件を話されたら、もうこの奉公先にはいさせてもらえなくなるであろう。しかしそんな事はどうでも良かった。働く場所がなくなったら、まら探せば良いのである。それよりも彼女の事である。間違いなくワシは彼女を動揺させてしまった。動揺させてしまったという事は、傷つけてしまったのかも知れない。しかし自分にこれ以上、彼女に言葉をかける勇気はなかった。これがワシの精一杯の意志表示だったのじゃ。明日になれば、またいつも通りにワシの元に来てくれるのではないか、という勝手な期待をして、その日は寝床についたのじゃが・・・。


 老紳士は話に区切りをつけた、というよりも言葉に窮した様子であった。周りの三人は昔話を語る彼に対して、只ならぬ気配を感じていた。そしてその予感は当たっているのである。


 〇老紳士の話

 その次の日の朝・・・・、とんでもない事になっていたのじゃ。周りが騒がしい。ドタドタとそのせいでワシは、いつもよりも早く起床した。尋常ではない顔で女中が廊下を走ってきた。そしてワシの顔を見るなりに言ったのじゃ。「お嬢さんが・・・!!」その必死な表情が、悪い知らせそのものだった・・・。


 「・・・・。」

肩で息をする老紳士。体調が悪いのだろうか。それでも力を振り絞り、彼は言う・・・。


 〇老紳士の話

 最悪の結果となったのじゃ。彼女は・・・、ワシが好意を告白した彼女は・・・、死んだのじゃ・・・。井戸の底から遺体となって見つかったのじゃ・・・・。勿論、信じられなかった。これほど自分の告白が彼女を傷つけたのか、と・・・。いくら何でも自ら命を絶つなど・・・・とは・・・・。ワシは心底に自分自身を責めた・・・。


 それはマスター、ウェイトレス、運転手が想定していたものよりも、ずっと最悪の結末であった。まさかその少女が命を絶つなどとは・・・、誰が想像できたであろうか・・・。ところがそれだけでは話は終わらないのである。それは老紳士の眼差しが物語っていた。彼の眼はまだ輝きを失っていない。三人に伝えたいことが、まだあるのだ・・・。


                                           <続く>


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