剣聖〜後編〜
「『七星剣・三式 黄塵万丈』…!」
オクトゥスはそう言って斬撃を放った。
魔力を持たない剣聖は闘気を纏うことができる。それは剣を弾き、魔力を吸い取る鉄壁の結界。しかし逆にそれはあらゆるものを切り裂く刃となる。『七星剣』これに何度斬られたことか。闘気に吸い取った魔力を帯びさせるなどそうできてたまるものか。
そしてこれは三式。属性は地。
(魔力で受けきれるか…否、今の我ではかき消されておしまいだ。躱すしかない!)
「昇れ!地柱!!」
魔力を流し込むと地面が隆起し、飛び上がる。
同時に足元を黄色の斬撃がかすめる。ジュッという音とともに爪先が焼ける。
「っ…」
(爪先が焼けてしまったが…なんとかかわせた。こいつの剣…我と戦った初代よりも鋭いぞ)
しかしこのような技、何度も繰り出せるはずがないだろう。だがしかしその時だった。
「一式…!」
「おいおい嘘だろう…」
腰だめに構えた剣…確か一式は縦振りの一撃だったはずである。しかしそれはどう見ても三式と同じ一閃の構えだ。つまりこれはフェイントだ。
(炎波っ!)
ごうっと炎がオクトゥスを包み込むがそれをすぐさま切り裂く。
「いやはや、なんであの一瞬で気づくんですかね?」
「残念だったな…剣聖?」
すぐ次の手がくるだろう。だが…エイディスにはその一瞬だけで充分だった。がくっとオクトゥスの動きが止まる。目を向けると知らぬ間に体には強固な糸が絡みついていた。
「っ…動けな…?」
(トキシスパイダーの糸か…炎波に紛れて気付かなかった…)
「どっから持ってきたんですか…こんなもの」
トキシスパイダーは毒蜘蛛だ。その毒は大型の魔物すらも軽く殺せてしまうほどの猛毒。そしてその最大の特徴…毒が染み込んでいる糸を使って巣を作るのだ。
「っ…」
闘気を失い、糸に触れてしまったオクトゥスをじわじわと毒が蝕む。
「言ったはずだぞ?殺すつもりで行くと…!」
エイディスの右手に魔力が収束していく。
天に掲げた右手には木剣が握られている。
(今の我は勇者でもある。ならばこれを使えるはずだ…かつて魔界ごと我を切り裂き葬った忌むべき刃…だが今は違う)
黄金に輝くその刃は聖剣。勇者にしか使えない勇者のための剣…。
「切り裂け…!聖剣ぁぁぁあ!!!!!!!」