剣聖〜前編〜
結論から言おう。
エイディスは負けた。一本も取れなかった。
剣、スキル、魔術を扱っても傷の一個をつけるのが限界だった。エイディスの現在使える魔力総量は魔王時代のおよそ20%だ。
「くそったれが…なんなんだあの騎士団長は…。魔術もスキルも全く効かないとは」
思わず少し口が悪くなってしまった。いや、どう考えてもおかしい。魔術は体に届く前に打ち消されスキルを乗せた剣はオクトゥスの体に届く寸前に消え、ただの木剣と化していた。考えられるのは2つ。
1つは「対抗魔術」相手の行使した魔術と同等かそれ以上の魔力を流し込み魔術を狂わせることにより術という型を失った魔力を散らすという魔術だ。そして2つ目は「闘気」。だがしかしこれの可能性があまりないのではと思う。なぜならこんなもんが使えるのはこの世界でただ一人だからである。
「もしそうだとしたら…そりゃ20%でも勝てないわけだが…さすがにないか」
明日、もう一度オクトゥスと相対する訳だが。どうしたものか。
(少し…やってみるか)
そして当日。
「さて…エイディス様、今回も魔術とスキルの使用を許可します。全力で来なさい」
(殺すつもりで行く…)
「今回も審議は私、王宮魔術師リッカ=ルルーノが務めます。両者構えて、始めっ!!」
エイディスの体が魔力に包まれていく。
(「身体強化」「速度強化」「貫通」)
「『三重魔術』ですか。本気ですね」
「さてどうかな…?」
よく見る。エイディスのはじめにとった行動はそれだった。
(さて…どうくるか。こちらが見えぬ程の速度の『対抗魔術』かあるいは考えたくもないが…『闘気』か。どちらにせよ見るしかないな。来いよ…騎士団長)
オクトゥスのはじめの一手は上段。真正面からの縦斬りだ。
エイディスは即座に見切り、背後にまわって回転斬り。
「『剣撃強化』!」
強化された木剣は岩をも穿つ。とらえた。そう思えた。
「!?」
剣がオクトゥスに届くその寸前。エイディスはたしかに見た。
消えた、いや…吸い取られた。
エイディスの顔の血管がビキビキと浮き出す。
「そういうことか…剣聖!!」
「おや、知ってたんですか」
オクトゥスの口元がにやりと歪んだ。