指南役
今回の一件は勇者であるリーデによって解決されたということになった。
「いや…えっと…ぼくがやったのか?」
「えぇそうですとも!兄上。あの素晴らしい剣さばき、お見事でしたよ」
(まだ幻術のかかりが弱いようだ。だがまぁなんとかなるだろう)
エイディスが魔法を使ってリーデ達が敵わなかったトロルリーダーを叩きのめしたなどと言えるわけもない。
今回の出来事は皇国に報告され、ラカバ大森林の警戒は強まることとなった。
リーデはトロルリーダー討伐の功績として聖剣ウリエルが受け渡された。
聖剣を手にしたリーデは名実ともに勇者として認められたということになる。
ラカバ大森林での一件から2年の月日が経ち、エイディスは今年で10歳になった。色々なことがあったがまぁそれはまたいつか話そう。
ドアをノックする音が聞こえる。エイディスは走らせていたペンの動きを止めドアの方に目をやる
「エイディス様」
「どうしたリッカ入れ」
この者はリッカ=ルルーノ。我の世話役であり魔術教師だ。
「オクトゥス騎士団長がお呼びにございます。木剣をお持ちになって修練場にとのことです」
「おぉもうそんな時間か。今日こそは一本取れればよいのだがな」
壁にかかっていた木剣を手に取ると修練場へ向かう。
ガァンッ…ガァンッ…
激しく木剣と木剣がぶつかり合う音が響き渡る。
「精が出るな。オクトゥス」
「お待ちしておりましたエイディス様」
スラッとした長身、目元は仮面のようなものを付けていて、緑の長い髪は結っている。ともすれば何処かの執事と間違えてしまいそうなほどに美しいこの男はこの国の騎士団長オクトゥス=メンダシウム。
「皆の者、これよりエイディス様の稽古となる。下がれ」
「はっ」
訓練中の騎士たちは木剣を収め修練場を後にする。
王子に何かあってはならないからとのことらしい。
「ではエイディス様、今回は魔術、スキルの使用を許可します。全力で私に向かってきてくださいませ」
(ほう、今までは純粋に剣術ばかりであったが、ここに来て魔術解禁とな。ふむ、面白い)
「いいのか?手加減などできないぞ?」
「手加減など無用にございます。私は魔術は使いませんゆえ」
ふふ…と爽やかな笑みを浮かべているが、放っている圧は凄まじい。
「言ってくれる…今日こそはその剣を叩き落とし、膝をつかせてやるまでだっ!」
エイディスがオクトゥスから剣を習い始めてはや数年、決して手加減をしていたわけではない。かつて最恐の魔王と呼ばれ恐れられたあのエイディスでさえ木剣の一本も落とすことが叶わなかった男、
「参るっ!」
それがこの男オクトゥス=メンダシウムなのである。