王気
魔界崩壊から508年。神聖王国デリヴェラの第二王子でありこの世界の勇者として転生した魔王、「エイディス=フォーン=デリヴェラ」(8歳)は小型の脚竜に乗り平原を駆けていた。
「・・っ!」
(仕掛けていた探知魔術に何か引っかかったようだな・・)
「離れるなよ。エイディス!」
無論エイディスは一人ではない
「はい!兄上。ですが一つ。先程の探知魔術に何かかかったようです。向かいますか?」
「ああそうだな・・セフィカ、アルグ!!後方に気を付けながら探知刻印まで戻るぞ!!」
「「はっ!!」」
エイディスの兄であり当代勇者の「リーデ=フォーン=デリヴェラ」(10歳)。そして王国騎士団の「アルグ=マータ」、宮廷魔術師「セフィカ=アゥタム」だ。
(兄上はもちろんとしてこの二人もなかなかの実力。前世の我ならスカウトしていたであろうな)
そうして一行はエイディスの仕掛けた探知魔術のある森に入っていった。
(いるな・・。前方2刻といったところか?)
「リーデ様!前方2刻の方向に3体!!」
エイディスのすぐ後にセフィカも気づいたようだ。想定外の距離で気づいたことにエイディスは驚いていた。
(だが惜しいな。正しくは・・)
「4体だ!」
リーデが叫んだのとほぼ同じタイミングでがささっという大きな音と共に2体の狼型の魔獣『シャドウ・ウルフ』がとびかかってきた。
「『穿てっ!氷矢!』」
「うおおっ『カーヴエッジ』!!」
アルグの剣とセフィカの氷の矢がシャドウ・ウルフに突き刺さる。
(素晴らしい手際だ。瞬間的な詠唱と剣技、やはり優秀だ。そして何より・・)
「『聖剣』!!!」
一閃。まさにその言葉の通りだった。シャドウ・ウルフの首が吹き飛び消え去る。
(3体同タイミングでの一閃。美しい・・だが惜しいな)
ドオオオオオン
「・・正しくは5体だ」
「ヴオアアアアア!!」
森が爆発した。そう思うほどの衝撃がエイディス達を襲った。大木をへし折る怪力、15mはあるであろう巨体、肌は赤く岩のようにざらざらとしている。
「『トロル』それもリーダー格の『トロルリーダー』か・・いいだろう」
「なっ・・なんだこいつ」
「リーデ様!エイディス様!お逃げを!!」
セフィカが叫ぶがリーデは動けない。おそらくはこのトロルリーダーの放つスキル『王気』だろう。魔力耐性の低いもの、ましてや齢10歳で実戦経験の少ないリーデには堪えるだろう。
「ウヴォオアアアア!!!」
動けないリーデにトロルリーダーの拳が迫る。
「あ、ああっ・・・」
「リーデ様っ!!!」
ガッッッッ
セフィカがリーデを庇って拳を喰らって倒れる。
「セフィ・・カ・・!」
アルグも王気で動けずに意識を保つのがやっとのようだ。
(なんてことだ。この程度の王気に押されるなど・・笑止)
トロルリーダーの前に歩いてゆきその目を見つめる。
「全く・・つくづく思うよ。ヒトとは魔素への耐性が低い、低すぎる」
「ウ、ヴォアア・・」
「ところでひとつ良いかね??トロルリーダーの君」
体内魔素を全身へ巡らせる・・・。
「君から漏れているその雑な魔素・・もしかしてだが、それが王気などとは言うまいな??」
「知能の欠片もないであろう君に特別に見せてあげよう・・しかと目に焼き付けるがいい・・」
全身に巡らせた魔素を魔力に変換しオーラとして放出する。
「これが『王気』だ・・」
エイディスの瞳が怪しく輝いた・・・。