魔界崩壊と転生魔王~後編~
勇者とはこの世界の神に選ばれし存在である。
その瞳には紋章が刻まれ、傷は即再生し毒も魔法も効かない身体。人並はずれた身体能力そして何
よりその手に握られているのは『聖剣』闇を払い魔を討つ神の剣。
魔王の対にして人界の守護者が今目の前にいた。
「来たか・・勇者」
魔王と勇者、相対する二人が今出会った。
「・・・・・・」
「虚ろだな?何を見ている??」
「・・・・」
その刹那勇者が動いた。
「『勇者の聖剣』・・」
ヒュッという音と共に背後の城壁がガラガラと音を立てて崩れ落ちる。
「・・・ほう。それが聖剣か、興味深い」
そういうと魔王の右手に魔力が集まる。
「こちらも、抜くとしようか・・!」
魔王が右手にあるのは『魔剣』。その中でも光を喰らい闇を振りまく暗闇の剣である。
「『ティルヴィング』・・!」
闇が迸り勇者の聖剣を侵食する・・。
「・・・っ!」
勇者はバックステップで魔王との距離をとる。
お互いが睨みあう。
先に動いたのは魔王だった。
「侵食せよ!『ティルヴィング』!!」
剣先から迸る闇が勇者を襲う。触れれば体を腐敗させ崩壊させる。
が勇者も黙ってみてるわけではない。素早く反応し闇を切り払うと距離を詰め、聖剣を一閃させる。
「『聖剣』・・・!」
恐ろしい程の剣速、いやそうではない。”速すぎるのだ”。いくら勇者といえど肉体を持つ人間、のはずである。
通常人間とは魔族と違い肉体を持っており、全身が魔素で構成されているわけではなく肉体の一部を魔力で覆って身体能力を強化している。が、目の前のこの男の動きは明らかに肉体の限界を超えているのだ。
「いやしかし、ここはまず・・!」
魔剣を地面に突き刺すと魔力を流し込む。
「『放射』!!!」
魔剣のエネルギーを地面に放射し爆発を起こす。周囲ごと勇者を吹き飛ばす。
「がっ・・・!!」
「貴様。本当に速いな、少し速すぎるほどに・・。何か仕組みがあるのではないのか?」
「・・・・・・・」
(頑なに言わないというわけか。ならばよし・・)
魔力を左手に集中させ着火する。
「力ずくで・・暴いてくれよう!!『極炎』!!!」
辺りの瓦礫が溶ける程の高熱の火球。草木は発火し酸素は燃焼する。
「どうした?そろそろ並みの人間なら骨をも残さず消えるはずなのだがな?」
魔王は焦っていた。
(なんてことだ。こいつ本当に人間なのか・・?)
勇者は汗の一つもかかない。それどころか見る見るうちに勇者の魔力が高まってゆく。
(まずい・・!!どう考えても危ない!!)
「『極炎!!』」
振り下ろされた火球が勇者を包む。
(止まらない!!)
この魔力の上がり方に魔王はおぼえがあった。己の限界を無視した急激な魔力の暴走・・。
「そうまでして人族を守るか・・勇者!!」
「………スマナ……イ」
「!!?」
勇者の体が光りだす。
「皆のもの!!!我が後ろに隠れよ!!!」
全身の魔力を両手に集中させ魔力の盾を限界まで張る。
「『滅光』」
その瞬間魔界は光に包まれる。
全神経を集中させるが耐えきれそうにない・・。せめて一部の部下と民だけでも……!!
「四天魔軍王と全魔族に告ぐ!!!!!!」
魔王の声が魔界に響き渡る。
「この魔界は我が・・我が最後まで・・・・この魔王の名に賭けて最後まで守り抜く!!!」
「魔王様・・!」
「四天魔軍王・・民を守り抜け!!!いいか!!!まだ負けではない・・生きていれば・・まだ・・・!!!!!!」
その手に力がこもる。
「うおおおおおおおおお・・・!!!!!!!!」
バチッ・・
だがそれ虚しく盾は砕かれる。
「がああああああっっっ!!!」
美しかった城も街も民の笑顔もすべてを塗り潰し灰と化す。
(ああ・・。終わるのだな・・・・)
(民も・・城も・・・)
体がサラサラと崩れ行く。
(我も・・・・)
神界歴500年・龍の月 魔界、滅亡。
・・・・・・・そして
神界歴1000年・不死鳥の月
目覚めると見知らぬ部屋にいた。
(ここは・・一体??)
「(おい誰かいるのか)」
自分の声が聞き取りづらい、身体も重く動きづらい。
少しジタバタしていると奥の扉が開いた。
「(!!!??)」
人間。それも女だ。何やら魔王(?)の方に駆け寄ってくる。
「(おのれ人間!寄るなっ!!)」
払いのけようとするがそれでも構わずに女はニヤニヤと笑っている。
(お、おそろしい・・)
しかもあろうことか両手で魔王を抱えたではないか!?
「(なんなんだコイツは・・!?さては人界の豪傑!)」
混乱していると女は奥になにか呼びかけた。すると奥の扉から車椅子に乗った女とそれを押す女が現れた。
「王妃!産まれましたよ!元気な元気な男の子ですよ!!」
(ん?産まれた?何を言っているのだ??)
「まぁ!本当に・・なんて可愛らしいの!」
車椅子の女が涙を流しながら魔王を抱きしめる。
(・・・抱きしめる??)
「お母さんですよー」
「(よ、寄るなっ)」
そう言って女を振り払おうとしたときの手は、明らかに人間の赤ん坊の手だった。
「(なっ!?どうなって・・)」
それに声もおかしい。どんなに叫んでも聞こえるのは魔王の威厳ある声ではなく、「おぎゃー、おぎゃー」という声なのだ。
「(どうなっているのだ・・?これはまさか・・・ありえない)」
ありえない。そうだ。あの時彼は魔界もろとも滅びた・・・はずなのだ。だが実際今ここにいる。
つまりここから考えられることは一つであった。
(転生・・したとでもいうのか・・?)
ふと車椅子の女が魔王をのぞき込む。そうして少し悲しそうに
「この目・・やっぱり・・紋章」
「ええ!新たな勇者の誕生にございます」
「(紋章・・??)」
車椅子の女の後ろにあった鏡に目をやるとそこにいたのは小さな赤ん坊だった。そしてその片目には
あの少年・・勇者と同じ紋章がうっすらと刻まれていた。
(なんて皮肉だ・・・。つまり我は勇者に殺され、勇者に生まれ変わったと)
ふと車椅子の女に目をやるとなぜか泣いていた。
「ごめんね・・・こんな・・!!」
そう言うと女は魔王を抱きしめた。おそらくこやつが今世の母親なのだろう。その手には確かなぬくもりがあった。
「エイディス・・エイディス=フォーン=デリヴェラ・・。これがあなたの名前よ」
神聖王国デリヴェラ。今この地にてかつて最恐の魔王と呼ばれた者の勇者としての第二の生が始まったのだった。