黒の鋭爪
エイディスはウェン・デリヴェラ近郊の広大な平原、『レデナ平野』を駆けていた。理由は前回の自室爆発事件の罰として城付近の魔物の掃討を言いつけられたからである。
眼前には大きな猪型の魔物『クレイジーボア』が2頭。
エイディスは脚竜の速度を上げつつ腰から投擲用の短剣を取り出す。
「『投擲強化』『貫通』『 分身』」
ニ種類の強化魔法を付与した投剣を『分身』で二本に増やし、腕を振りかぶった!
(投擲スキル…)
「『バレットナイフ』!!!」
ドンッというまるで銃撃のような音をたてて二本の投剣が『クレイジーボア』の頭を貫く。
「ゴブァァァッ…!」
ほぼ同時に二頭の獣は地面を転がり息絶えた。
「さて、フェニクス。辺りの魔物の数と配置を知らせよ」
『えっとですね…ここから更に北に少し進むと数体いますよ。……これはスライムです』
(スライムか。面倒な奴がいたものだな)
スライムとはゼリー状の魔物で身体に触れたものを全て溶かし吸収する特性を持つ。そのため剣や弓などの物理攻撃は一切通用せず、倒すためには相手の魔力総量を上回る魔力を流し込み崩壊させるか炎などで焼き尽くなければならない。
(イフリート。聞こえているんだろう)
(あ、はい…な、何すか…主)
おどおどと怯えた声のイフリートを呼ぶ。
(スライム相手ならお前が最適だろう。掃討してこい)
(え、俺…自分がっすか!?)
(あたりまえだろう。誰のせいでこうなったと思っている…役に立たぬ使い魔など不要だぞ)
しぶしぶと言った感じで魔法陣から出てくるとスライムに向けて狙いを定める。身体には魔力が満ちてゆく。
「極炎!!」
巨大な火球が数体のスライムの群れを草むらごと焼き尽くした。
辺りは爆散したスライムの破片や立ちのぼる煙、そしてスライムが蒸発した臭いでとんでもないことになっていた。
「あ、あのこんなんでいいんすかね」
「あぁよくやったこの調子でここらの奴らを一掃するぞ。来い若造」
「あ、はい…」
突如、エイディスの魔力探知に何かが引っかかった。
人間では無いのは確かだ。魔力の濃さが明らかに違う。
濃い、とてもそこらの魔物とは比べ物にならないほどだ。
「これは…魔族……ではないな…」
まさかと思いたかったが、エイディスはこの魔力に覚えがあった。
『エイディス様!やばいです、なんかめっちゃ速いやつこっち来てますよ!!』
「わかっている…!イフリート臨戦態勢!!」
「了解っす!」
構えた瞬間バンっという音とともにイフリートが消えた、いや吹っ飛ばされた。
「イフリート!!」
(攻撃された……!遠距離射撃!?)
とにかくまずは状況を把握しなければならない
「フェニクス!探知!!」
「……っ!!?目の前です!!」
「なにっ!??」
探知に回していた魔力を全て防御魔術にまわし、身体強化、魔力装甲、防御結界を施す。その瞬間ドンッと言う音と共に砂煙がもうもうと立ち込める。
『エイディス様!!』
その中から相手の攻撃を腕で受け止めたエイディスがあらわれる。
「舐めるなよ…貴様…」
「おや…止めますか」
攻撃を仕掛けた者は長い黒髪に長身。両眼は紅く瞳が黄金にギラギラと光っている。
爪は鋭くそこらの剣以上の切れ味がある事が伺える。そしてその額から伸びる角、背中に生えた黒翼。その姿を見るに疑う余地はなかった。
「貴様……「上位悪魔」か……!!」
「お初にお目にかかります元魔王……私我が君直属の悪魔ベルゼブブと申します」
にやりと嘲うとそいつは言った……。
「現魔王であらせられる我が君のご命令により貴方の魂を頂戴します」




