獄炎の大精霊
デリヴェラ城の一室にて、轟音が鳴り響いた。
「はぁ…やってしまった……」
なぜこうなったかというと話は少々遡る。
「すぅーーー…」
深く息を吸い込み、全身の魔力を突き出した掌に集中させる。掌の魔力をそのまま炎へと変換、圧縮、集中、そのまま呪文とともに放出する。
「『極炎』」
高まった魔力の塊は巨大な火球となり、発射された。
…が、部屋にはられた結界により打ち消される。
「ふぅ…どうだ?フェニクス。今の『極炎』は」
「うぅ〜ん…昔と比べるとすっごく弱いですね。10点!」
辛口だ。
エイディスとフェニクスは自室にて特訓を行っていた。
主に魔力を肉体に馴染ませる訓練である。
今のフェニクスの言葉から察するに現在のエイディスの魔力操作は魔王時代、つまり全盛期の約10%程であることがわかる。前回使ったときは体感20%だったと思ったが、まだ剣聖戦の疲れが癒えきっていないのだろう。
(衰えたな…昔ならこの程度の結界は消し飛ばすくらいには容易かったというのに…)
今のエイディスは全身魔力で構成された魔族ではなく肉体を持つ人の身体である。魔力が身体に馴染んでいないのも頷ける。
(だがこれでは人間の使う上位魔術程度の威力だ。とてもじゃないが剣聖の闘気を打ち破れない…)
魔力を馴染ませる方法は唯一つ、ひたすらに魔力を使うことだ。連続で行使される魔力を身体に刻み込み、馴れさせるしか方法はない。
「色々やってみるか」
「『凍結!』」
「12点」
「『荒嵐っ』」
「15点」
「『轟雷』」
「9点」
「『尖水』」
「あ、見てなかった…あぁ…じゃなくて14点」
「………。おい貴様、その採点適当だろ」
ぎくっと音が聞こえそうなほどに途端に挙動不審になるフェニクス。ふかふかの羽毛から滴るほどに冷や汗をかいているのが見える。
「…まぁいいけど。それにしてもこんなに威力が出ないとはな」
「そうみたいですね。私の姿もこんなにちっちゃくなっちゃいましたし」
「そういえば他の奴らは元気なのか?」
「そうですね、えっとぉ〜あんま会わないからわかんないんですよね〜。あ、でもでもイフリートはこの前会いましたよ」
「イフリートか。懐かしいな。ちょっと呼んでみるか」
そう言うとエイディスは指先を噛んだ。血液がしたたる。召喚とは契約である。契約を履行するには贄が必要だ。一定量の魔力であったり、魔石であったり、はたまた食物であったりと召喚する使い魔によって贄は異なる。そして今召喚しようとしている使い魔「極炎精霊イフリート」の贄は、ある一定量の魔力を含んだ血を燃やした時の熱である。
じゅっと言う音と共に血が燃えて火となる。
「『獄炎の大精霊よ、地獄の豪火よりその姿を顕せ、』」
「来い、イフリート…!」
「臭う…臭うなぁ…魔血の爆ぜた良い香りだ…懐かしい…何百年ぶりか…久しいな…魔王よ!待ちくたびれたぞ」
「久しいな若造」
その瞬間イフリートが動いた。
「『極炎』!!」
「『対抗魔術』」
巨大な火球はエイディスに届かずに散らされた。
間髪入れずにエイディスが動く。
「『水波!』」
巨大な水の波がイフリートに向かう、がその前にすべて蒸発する。その隙に腰の剣を引き抜きもうもうと立ち込める蒸気に飛び込み、イフリートに斬りかかる。
「舐めるなよ…!」
(剣撃強化…)
「『カーヴエッジ』!!」
ズドンと剣がイフリートの腕にめり込む。
(斬れないか…頑丈さは相変わらず!)
「こんなもんか…!魔王!!ガァッ!!」
イフリートが豪炎を吐き出す。エイディスを包む。
「舐めるなといったのだぞ…若造が…たかが1000年かそこらの寿命程度で…我との差を埋められると??思い上がるなよ…!」
エイディスの魔力が高まる。
「炎の何たるかを今一度教えてやる。その身に刻め…!『極炎拡撃』!!!」
数十の極炎がイフリートの身体を焼き尽くす。
その威力に耐えきれなかったのか、結界がバキバキと音を立てて弾けとんだ。
「あ」
デリヴェラ城の一室にて、轟音が鳴り響いた。




