魔界崩壊と転生魔王~前編~
それは、遠い昔のその昔。
まだ世界が神と共にあった頃の話である。
(魔界王都 ラグナリア)
その日魔界は戦火に包まれていた。
魔術の閃光が光り輝き魔物たちを焼き尽くす。
「まだまだだ!我らが主に続けぇ!!」
オオオオオオッ
騎士たちが雄叫びとともに突撃する。魔物たちの血と絶叫があたりに響き渡る。
戦力の差は圧倒的、人間の勝利は目前に見えた。
「いいぞ!!勝てるぞ!」
「愚かな魔物どもめ・・・!!人間に歯向かったことを後悔するんだなぁ!!」
「汚らわしい魔物など・・我らが主に代わり神罰をくだしてくれるわ!!」
騎士たちは逃げ行く魔物を追いかけ、斬りつけ、魔術で燃やし、肉塊となるまでひたすらに”浄化”していった。
「ぎゃああああっ!!!お、お許しください!もう・・もう殺してくださいいぃ!!」
四肢を落とされ身体中傷まみれの豚鬼がそう懇願する。
「ぎゃははははは!!汚らわしい豚には似合っておるわ!殺してほしいのか??」
「・・・は、い・・ど、どうか首を・・」
それを聞いた騎士はけたけたと笑いながら懐から小瓶を取り出しそれを豚鬼の頭からゆっくりかけた。
「ぎぃああああぁぁぁぁぁああああ!!!」
ジュウウという音と共に豚鬼がドロドロに溶けていく・・。
「ヒィイハハハハハハアァァ!!穢れた魔物ふぜいが!痛いか!?神罰だ!我が神から賜わりし聖水で浄化してくれるわ!」
なすすべなく豚鬼は跡形もなく消えた。豚鬼が死んだのがわかるとその騎士は興味を失ったように真顔になりその場に背を向けた。
「・・・・・なんだ・・これは・・??」
突然の声に騎士はびくっと振り返った。
「な、なにもっ・・・・」
騎士が最後まで言葉を紡ぐことは叶わなかった。
「・・・いい、黙れ。貴様らの声など聴く価値もない・・・・・」
地面に転がる騎士の首を無視して戦場の中心へと赴く。
そう。彼が来たのだ。
音もなく浮遊すると、彼は全身の魔力を解き放った。
「・・ま、おうさ・・ま??」
魔物の一人が呟いた。
「・・・聴け。愚かな人間共」
その圧倒的なオーラを前に魔物も人間も動きを止め彼を見る。
「貴様らは、我が同胞を苦しませ、殺し、住む地を奪い、それだけでは飽き足らず・・浄化だと??実に腹立たしい・・この蛮行断じて許さぬ。覚悟するがいい人間共・・!貴様らは、今ここで全て、この我が、魔王グレム・ハーデスがその魂ごと滅してくれよう・・!」
その声とともに空に刻まれる魔法陣。
「ゲヘナに眠りし絶望よ・・・来たれ!!」
「使役・ソウルイーター!!!」
黒い陣が輝き『絶望』が姿を現す。
『GIGIGIGI・・』
「さぁ人間共改めてようこそ魔界へ。入国料は・・貴様の魂で負けてやろう。ソウルイーター」
『HARA・・・HETTA!!!!』
ソウルイーターがその場にいた騎士を食い尽くすのを止められるものなどいなかった。
「ハァッ!!いぃやだあああっ!いy・・・・」
バチッ
「や、やめてくれっしにたくn・・・」
グジャッ
逃げ惑うもの、逃げることすらあきらめて立ち尽くすものもいた。
魔王が来たことで戦況は優位にいや、それ以上だった。魔物は歓声を上げている。勝った。誰もがそう思ったその時である。
土煙の中から一人、臆せずに魔王に立ち向かってくるその者を一目見るに魔王はにやりと笑った。
「きたか・・勇者」
その少年の瞳の刻印は輝いていた。